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眠り姫 エピローグ

 ルキナが目覚めて二週間ほどの時間が流れた……。

 世界に慣れるまではエニが身元引受人となり、ルキナの面倒を見る事になる。

 転移者は基本的に世界に慣れるまで、誰かが身元を引き受ける決まりがあった。

 エニは最初からルキナの能力に目を付け、すぐにルキナと共同で「夢セラピー」の仕事を始めた。

 ルキナのする事は元の世界と変わらないが、忘れ物探しが多く、平和で良いとルキナは満足している。


 そしてある日の夜、レウルの家でルキナは近況報告をエニと一緒にしていた。


「……問題は無さそうだな。てか、店の方は大人気じゃないか」

「本当ですね。ここまでの売り上げが出るとは」


 エニとルキナから提出された書類を見てレウルとケイが驚く。

 今はエニの店の一角を借りて夢セラピーを始めたばかりだが、忘れた事を正確に思い出せる力は大人気で、かなりの売り上げを伸ばしていた。


「エニさんのお陰です。いつまでもエニさんに甘えてはいられないですし、お金が溜まったら独り立ちして、店をきちんと建てようかと」

「その時は是非、我が社と正式に業務提携をしていただきたいですわ」

「はい、もちろんです。いろいろお世話になっていますし。困ったお客様の事などでも」


 ルキナの温厚な性格と綺麗な容姿に、夢の中で告白などする客がおり、そこは予め護衛として待機していた夢魔が強制排除していた。

 ルキナ自身でも相手を夢から覚ます事は可能だが、悪い気がすると言って躊躇するので、エニが手を貸す事になる。


「ただ、まだまだ先の話ですけど」


 困ってはいるようだが、その口調は楽しそうだった。

 ダストワールドにも慣れてきたルキナは、夢の中で会った時よりも明るい。


「少しはこっちの世界にも慣れたようで良かったよ。さて、とりあえずこの書類はこっちで一旦預かる。最終確認してから返すから」

「よろしくお願いします」


 同じ転移者であり、自分の居場所ができた事は、素直にレウルにとっても嬉しい事だった。


「ですが、最後は大変でしたね。ニフス様のおふざけが」

「あー……あれな。マジでぶん殴りてぇ」


 最後のキス騒動を思い出し、レウルがげんなりした表情になる。


「お? 殴っちゃう?」


 不意に声が聞こえると、レウルのすぐ傍に光の粒子と共にニフスが現れた。

 レウルは呆れ、ケイたちは驚いた表情になる。


「ニ、ニフス様!? 驚かさないで下さい」

「……せめて玄関から入って来てくれないか?」

「面白くないから却下。まぁ、人を選んでちゃんとやってるから問題なしよ」

「人を選ばずやってほしんだが。それで何か御用で?」

「ええ、ちょっとレウルに聞きたくて」

「何を?」


 ニフスがレウルとルキナを顔を交互に見る。


「何でキスしたの?」

「……は? あんたがそうするように仕向けたんだろうが!」


 意味の分からない質問にレウルが声を上げる。


「ああ、ごめんごめん。今のは聞き方が悪かったわ。どうして『唇』にキスをしたの?」

「? キスで目覚めるとか書いてなかったか?」


 レウルがエニとルキナを確認するように見ると、二人が頷いた。

 そんな様子を見たニフスが意地悪そうな笑顔を見せる。


「おっかしいなぁ。私はキスで起きるとは書いたけど『どこ』とは指定してないわよ?」

「ん? どういうことだ?」

「キスなんて、おでこでも頬でも手でも良かったじゃない。だから何で唇にしたのかなぁってね」


 ニフスが心の底から楽しそうな表情をしていた。


「な、なななんだと! だったらあんな紛らわしい書き方すんじゃねぇよ!!」

「あはははっ! 次からはちゃんと考える事ね。今回は楽しかったわ。流石レウル。さすレル。その調子でこれからもよろしくねー!」

「やっぱりぶん殴る!」


 と、レウルがニフスに殴りかかろうとしたが、ニフスは光の粒子となってどこかへ消えた。

 疲れたようにレウルがソファに座ってうなだれる。


「……その、ルキナ。すまなかったな。確かに唇とか指定されてなかったわ」

「あ、いえ。あの文面だと仕方ないと思うので、気になさらないで下さい」


 ルキナが頬を染めながら言う。


「何だか、最後までニフス様に振り回された感じですわねぇ」


 エニは小さな溜め息を吐いた。


「ニフス様は本当に良く分からない方ですから、考えるだけ無駄かも知れません。温かい物でも飲んで落ち着きましょう」


 ケイが立ち上がると飲み物を淹れにキッチンへ行く。

 そしてケイの淹れたコーヒーや紅茶を飲んで落ち着くと、エニとルキナは帰り、家はいつも通りレウルとケイだけになった。


「まだ確認されるんですか?」


 二人が帰った後、レウルは何十枚もある書類を最初から見直していた。


「ああ、折角上手くいってるんだ。こっちのミスで水を差したくないからな。これも支部長の仕事ってやつだよ」


 丁寧にレウルは書類を一枚一枚、つぶさに確認する。


「新しい飲み物を用意します」

「悪い、助かる。ブラックコーヒーを頼む。ちょっと眠気がな」

「すぐにお淹れしますね」


 ケイがレウルに頭を下げるとキッチンへと向かった。


 レウルの仕事は多岐に渡る。

 今回も確認が夜になったのは、ルキナが新しくこの世界で住むための書類関係の準備や住民票の作成。

 差別や混乱が起きないための情報の開示と共有。

 する事は山ほどあった。


「レウル様、ブラックコーヒーが入り……」

「……」


 ケイがリビングに戻ると、書類はすでにテーブルの上でまとめられ、レウルがソファに座ったまま眠っている。

 ケイはそっと静かにコーヒーをテーブルに置くと、レウルに顔を近づける。


「……無防備に寝ていると、イタズラしてしまいますよ」


 囁くようにケイは言い、レウルを起こさないように毛布を持ってきて被せた。

 そしてケイは女性の姿になり、レウルにそっと唇にキスをする。


「眠り姫は王子様のキスで起きますが、王子様は違うようですね……お疲れ様でした、レウル様」


 ケイはレウルの対面に座り、眠っているレウルを微笑んで見つめる。

 眠り姫は目覚め、何も知らない眠り王子は起きる事なく眠り続けるのだった。


~ 第1話 眠り姫の起こし方 完 ~


※『後日談・ルキナ』に続きます※


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