第9話 つないだまま
夜の公園は、静かだった。
風も弱く、ブランコが静止している。
僕たちは、ベンチの横に並んで立っていた。
どうでもいいことばかり、話した。
「今日のコンビニ、唐揚げ増量でしたよね?」
「やっぱり、買っておけばよかったかな」
「うーん、でも太るのが怖いです」
そんな会話。
「……」
彼女が僕の袖を遠慮がちにつまむ。
僕はそれだけで、この世界を肯定できる。
僕は、そっと手を伸ばした。
一瞬だけためらってから、指を絡める。
彼女の手は、思っていたよりも温かい。
「……恥ずかしいです」
小さな声。
「うん」
それ以上、言えなかった。
引っ張るでもなく、合わせるでもない。
ただ、手をつないでいる。
動作はない。でも、彼女は安心した顔をした。
さっきより、口元が柔らかい。
彼女を見ているだけで、胸の温度が上がる。
「……悠人さん」
「うん?」
「こうしてると、普通のカップルみたいですね」
彼女は、少し照れたように視線を逸らす。
「普通かどうかは、わからないけど」
「はい」
「君が……君だけが大事なんだ」
指先に、力がこもる。
握り返される。
ナゲットの音が聞こえた気がした。
「座ろうか」
ベンチに座るときも、手は離さなかった。
彼女は少しだけ僕の方に寄ってくる。
肩が、触れる。
それだけ。
キスとか、無理。
約束もできない。未来の話もしない。
でも、今だけは。
「……悠人さん」
「うん」
「ここにいてくれて、ありがとう」
「僕のほうこそ、ありがとう」
ありがとうじゃ足りない。
でも、それ以上の言葉は、見つからない。
夜の公園で。手をつないだまま。
僕たちは、何も言わずに。
確かにそこに、存在した。
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