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第7話 君がいない

挿絵(By みてみん)

 下校のチャイムが鳴った。


 僕は、いつものように教室を出た。

 いつものように昇降口を抜けた。

 いつものように校門へ向かった。


 ……のに


 そこに、彼女はいなかった。


(……あれ?)


 立ち止まる。周囲を見渡す。

 いない。


 少し遅れているだけだ。

 そう思おうとする。


 でも、頭の中は勝手に動き出す。


(事故? この間の、違法の電動自転車の犯人が逆恨みした?)

(誰かに声をかけられて、足止めされてる? しつこいナンパ?)

(それとも、僕に愛想を尽かした? やはり罰ゲームなのか?)

(かわいいとか言うようにったのがキモかった? 調子に乗ってた?)


 止まらない。

 最悪のパターンを何度も、何度も反芻した。


 連絡先が、わからない。そんな関係性ってあるのか?


 電話番号も、LINEも、メールも。

 名前さえ、知らないんだ。


 だから、確認のしようがない。

 ただ、待つしかない。


(……バカだな、僕は)


 胸の奥が、じわじわと熱くなる。


 その時だった。


「……悠人さん!」


 聞き慣れた声。聞きたかった声。

 振り向くと、息を切らした彼女が立っていた。


 ちゃんと、ここにいる。実在する。

 幻魔なんかじゃない。


「遅れて、ごめんなさい」


 僕の中で、変な音が鳴った。


「……それ、違うよ」


 自分でも驚くほど、きつい声が出た。

 彼女が、目を見開く。


「『遅れて、ごめんなさい』じゃない」

「『心配かけて、ごめんなさい』だろ」


 止まらない。

 こんなこと、言いたくないのに。


「連絡先がわからないんだ! 名前さえ知らない! 何も知らないまま、待たされる側の気持ち、想像できる?!」


 彼女が震えている。

 僕は止まれなかった。


「どうせ、僕の連絡先は知ってるんだろ! なら、非通知でも連絡できたじゃないか!」


 彼女の逃げ道がない。

 彼女を追い詰めたいんじゃない。


——違うんだ! これは、本当に伝えたいことじゃない!


「捨てメアドでもいい」

「連絡先、教えてほしかった」


 言い終わって、後悔した。


 僕は、怯えているんだ。

 彼女を、失いたくない。

 彼女だけは、失いたくないんだ。


 沈黙。夕焼けが、やけに眩しい。


 僕は、深く息を吸って自分を修正した。


「……ごめん、嘘ついた」


 声が、少しだけ震える。


「君の名前や連絡先なんて、知らなくていい」

「本当の君のことさえも、わからないままでいい」


 彼女を見る。目の奥の、その向こう側を見る。


「……君を、見ていたい」


 喉が、詰まる。


「君の声を、聞いていたい」


 もう、誤魔化せない。

 こういう時に限って、声が裏返る。


「君と、一緒にいたいんだ」


 そんなキモい僕を、彼女は笑わない。

 彼女の瞳から、涙がこぼれた。


「悠人さん、好きです。好き、好きです。好きなんです——」

「どうしても、抑えられなかったんです——」

「私、悠人さんのこと、好きになっちゃいけないのに——」


 僕は、何も言えなかった。


「連絡できなかった……理由も、あるんです」


 ただ、彼女が存在してくれていてよかったと。

 心の底から思った。


 夕焼けの中。僕ははじめて、彼女の手を握った。


「話せる範囲でいいから、無理しなくていいから」

「一緒にいられるなら、全部、どうだっていい」


 僕たちは、いつもより少しだけ、近づいたまま立っていた。


「話します。もう、時間がありません」



お読みいただき、ありがとうございます。

嬉しいです。

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