第2話 ナゲットの幻魔
連絡先を聞き忘れた。
枕に顔を埋め、足をバタバタしながら気づいた。
遅い。
これはもう、取り返しのつかない種類の遅さだ。
昨日の出来事は奇跡だった。
奇跡は二度起きない。
この世界の法則だ。
僕にだけ厳密に適用されるやつ。
連絡先もわからないまま。
そういう世界線だ。
翌日の放課後。
とりあえず、ナゲットの店に行った。
とりあえず、だ。期待したら死ぬ。
同じ時間。同じ席。斜め前を見る。
……はい、はい。いない、いない。
すべて妄想だった。
フーリエ変換の準備までした自分が怖い。
目からヨダレが出る。ナゲットを噛む。
「サクッ」
音は出た。
でも、返事はない。
沈黙。完全敗北。
戦士たちは帰ってこなかった。
人は孤独になると幻覚を見る。
幻覚を現実にできるのが、闇のサイキックだ。
いつか彼女を顕現してみせる。
——そして連絡先を聞く
そう誓って、バイト先に向かった。
いつものコンビニ。いつもの夜。
いらっしゃいませ。ありがとうございました。
人類は、こうして回っている。
次のお客。顔を上げる。
……いた。
見ちゃだめだ。
見たら、また勘違いする。
世界が僕にだけ優しいとか思ってしまう。
だから、見ない。
——か、かわいい。
ナゲットの幻魔。
カゴを持っている。
お茶。菓子パン。半額サラダ。
この組み合わせ……メッセージだ。
「ふ、袋は……いるでござるか」
声は出た。奇跡的に。
キモいが、生存圏内だ。
「袋、大丈夫です」
幻魔がしゃべった。
「夜のシフト、多いですよね」
やめろ。
「今日は、9時までですよね」
やめてくれ!
「雨の日、代打に入ること多くて」
高位の幻魔だ。
「……昨日のこと」
来た。知ってる。
勘違い。ごめんなさい。罰ゲームでした。
「勘違いじゃないですよ」
「罰ゲームでもないです」
なん……だと?
「今日、ナゲットの店、行きましたよね」
心臓が跳ねる。
「来ないと思ってました」
でしょうね。
「でも」
一拍。
「ここには来る」
「あなたは、バイトを休んだりしない」
逃げ道を塞がれた。
怖い。
「南川悠人さん」
やめてくれ!
「あなたのことが、好きです」
あ、これフーリエ変換しないと。
録音、録音っと。
「また、来ます」
彼女はそう言って出ていった。
連絡先は分からないまま。
正体も分からない。
でも。
自分のことをマークしている幻魔がいる。
それだけは、分かった。
お読みいただき、ありがとうございます。
嬉しいです。




