第10話 君の名前は
アメリカのことは、正直よくわからない。
時差、距離、お金、手続き。全部、現実感がない。
でも。
追いかける姿勢だけは、見せるべきだ。
そうしないと、一生、後悔する。
だから僕は、まず——
名前を追いかけることにした。
手がかりは、三つだけ。
おそらく、幼稚園が一緒だった。
当時の苗字は、きっと「神源」。
女の子。
少なすぎる。
笑えるくらい、手がかりがない。
しかも、あの幼稚園はもうない。
少子化で、何年も前に潰れていた。
実家を探した。
アルバム、写真、名簿。
親にも聞いた。何も情報はなかった。
夜。暗い自室。
スマホの明かりだけが、僕の顔を照らす。
(……詰んでるだろ)
そう思っても。それでも親指が動いた。
人生で一度も頼るはずのなかった場所。
巨大掲示板。鬼女板、特定班。
怖かった。
でも、ここには掘れる人間がいる。
震える手で、スレを立てた。
『12年くらい前に「板橋区あさひの森幼稚園」にいた、苗字が「神源」っていう女の子、下の名前が知りたいです』
送信。秒で、レス。
『は? 板違い』
『探偵ごっこ?』
『キモい。ストーカー?』
胃が、きゅっと縮む。
『未成年? 警察案件じゃん』
『なんで今さら?』
……やっぱり、ダメか。
そう思った瞬間だった。
『神源って珍しいね』
空気が、変わった。
『どこの地域?』
『スレタイにあんだろ。低脳』
食いつきが変わった。
『8年前に閉園してる』
『名簿、区の自治会にあんじゃね』
スクロールする。
顔に血が集まる。
『ありがとうございます。涙が止まりません』
『がんばれ』
『結果報告、よろー』
彼女の名前は。
何度も、頭の中で繰り返す。
こんなにも意味の重い名前は、他にない。
まだ、何も解決してない。
追いつける保証は全くない。
でも。
追いかける。
闇のサイキックとして、全力を尽くす。
どこまで行けるかは、わからない。
でも——ここでやめる気には、なれなかった。
お読みいただき、ありがとうございます。
とても嬉しいです。




