【第3話】ハロー、ワールド
キョウヤたちを「廃棄」した後。
俺は、部屋の隅に山積みになった彼らの装備品を見下ろしていた。
国宝級の「紅蓮の鎧」、聖女の杖、そして……推定価格3億ガメルの「聖剣・アスカロン(レプリカ)」。
かつてキョウヤが、俺に見せびらかして笑っていた剣だ。
『マスター。これらの処分はどうしますか?
解析した結果、非常に純度の高いオリハルコンとミスリルが含まれています』
アルファが淡々と尋ねる。
俺は、煌びやかな装飾が施された聖剣を拾い上げ、軽く振ってみた。
重心が悪い。見た目だけの、成金の剣だ。
「そのまま売れば足がつく。それに……こんな『呪われたゴミ』を置いておきたくない」
俺は剣を放り投げた。
「アルファ。これら全てを『資源ゴミ(リサイクル)』として処理しろ。
分子分解して、ただの金属塊に戻すんだ」
『了解。……溶解処理を開始します』
空中に展開された魔法陣の中に、聖剣が吸い込まれていく。
数秒後。コロン、という音と共に排出されたのは、何の変哲もない**「鉄パイプのような金属の棒」**だった。
「……ハハッ。こっちの方が、よっぽど綺麗だ」
俺は笑った。
キョウヤのプライドの象徴が、ただの素材になった。
これで過去との決別は完了だ。
「さて、次は俺たちの『城』作りだ。
アルファ、現状分析。この施設の機能をフル稼働させたい」
『了解。施設のメインシステムにアクセス……驚きました』
アルファが端末からホログラムを投影する。
そこには、ダンジョン第55階層全体の3Dマップが表示されていた。
『この遺跡は、古代の「地熱発電所」兼「環境制御センター」です。
現在、稼働率は2%。ほとんどの機能がスリープモードになっていますが、私の演算能力で再起動すれば――』
全フロアの空調管理(エアコン完備)
温水供給システム(ジャグジー風呂)
有機物合成プリンタ(食料生成)
『――これらが利用可能です。
地上《内殻》のタワーマンション以上の生活水準を維持できます』
「最高だな。だが、問題はエネルギー(コスト)だ。
俺のIDは剥奪された。地上からのマナ供給は受けられない」
『問題ありません、マスター。ここはダンジョンです』
アルファが地図上の「赤点」を指し示す。
施設の周囲を徘徊する、凶悪なSランクモンスターたちだ。
『彼らは、歩く「生体電池」です。
私の演算能力で、ダンジョンの防衛システム(トラップ)を最適化すれば、モンスターを効率的に捕獲し、魔力を搾り取ることができます』
「つまり……モンスターを倒すんじゃなく、『発電』に使うってことか?」
『はい。これを**【自動魔力回収プラント】**として運用します。
狩り(ハンティング)は野蛮人のすることです。
これからは、養殖の時代です』
恐ろしいことをサラッと言う。
だが、合理的だ。
「よし、承認。
防衛システムのコードを書き換えろ。
ターゲットは『半径1キロ以内の全モンスター』。
すべて捕獲して、この部屋のエアコン代と風呂代に変えろ」
『御意。
――業務効率化、開始します』
***
それから3時間後。
「……極楽だ」
俺は、遺跡の一角に出現した「ジャグジー付きバスルーム」で足を伸ばしていた。
お湯の温度は完璧な41度。
手元には、有機物プリンタで生成された「最高級ステーキ」と「冷えた黒い炭酸水」。
ダンジョンの深層とは思えない、高級ホテルのような光景。
外の毒気を含んだ空気など、強力なエア・カーテンによって完全に遮断されている。
壁のモニターには、ダンジョン内の監視カメラ映像が映し出されている。
映像の中では、強力なドラゴンやキメラたちが、アルファが制御する罠にかかり、次々と瞬殺されていく様が映っていた。
『魔物討伐を確認。経験値を獲得しました』
アルファのアナウンスが響く。
通常なら、これでレベルが上がるはずだ。
だが、俺の体は何も変わらない。
『……マスターの体内許容量(レベル1)を超過しました。
余剰分のマナは、すべて施設の「外部タンク」へ送金します』
「ああ、それでいい」
俺は生まれつき、マナを溜め込む器が欠損している。だから俺自身は永遠にレベル1だ。
だが、俺の背後には今、「5000兆」を超える容量を持つ巨大な貯蔵庫が繋がっている。
俺は自分を強化しない。
代わりに、この「城」と「アルファ」を無限に強化する。
それが、俺の戦い方だ。
『お風呂加減はいかがですか、マスター?』
バスルームに、エプロン姿のアルファが現れる。
「最高だ。お前、本当に優秀だな」
『当然です。私はマスター専属のコンシェルジュですから。
……本日の収支報告です。
魔力収支は大幅な黒字。生成された「マナ・クリスタル」の備蓄は、すでに倉庫の30%を埋め尽くしています』
「30%か。ペースが早すぎるな」
俺はコーラを煽る。
マナ・クリスタル。
地上の内殻では、これ1個で家が建つほどの価値がある高純度エネルギーだ。
それがここでは、産業廃棄物のように生産されている。
「アルファ。このままだと在庫が溢れるぞ。
……『販路』が必要だな」
『地上へ売りに行きますか?
ですが、マスターはIDを剥奪されています。正規のゲートは通れません』
「ああ。だから、『裏口』を探す」
俺は、かつて解読した古代文献の記憶を辿る。
この第55階層は、古代のプラントだ。
ならば、発生した廃棄ガスを地上へ逃がすための「煙突」か「ダクト」が必ずあるはずだ。
そしてそれは、地上のゴミ溜め――**「外殻」**に繋がっている可能性が高い。
「アルファ、施設の構造図を再検索しろ。
『廃棄ダクト』への接続ルートがあるはずだ」
『……検索中。
――ヒットしました。第53階層エリアに、地上直結のメンテナンス用エレベーターを確認』
俺はニヤリと笑った。
ルートは確保した。商品は山ほどある。
あとは、俺の手足となって動いてくれる「現地の協力者」を見つけるだけだ。
「よし。風呂から上がったら、少し『営業』に出かけるぞ。
……スラムの連中に、本物のマナの味を教えてやろう」
俺はグラスを掲げた。
壁の外へ堕とされた俺が、壁の内側の経済を支配する。
その反撃の狼煙は、今上がったばかりだ。




