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飛行機旅行

作者: ラバリー

財布が大き過ぎる故に、家に財布を置いて来たことに気付いたのは宿泊旅客機に乗った後だった。

俺は愕然とした。

当然のことだ。お土産を頼まれて大金をせしめたのに、何も買って来ないという訳にはいかない。それに現地ではバスや電車も使うのだ。無一文無しで交通費を賄える程、俺は良い性格をしていない。

一層、お笑い芸人を自称して、全然面白くない1発ネタをカマしてやるのは逆にアリ寄りのアリなのではないだろうか。

旅行で財布を忘れるとか滅茶苦茶笑える。このネタなら、俺も自信があった。もし、他人が車に乗り込んで来て、財布が無いからドコドコまで行ってくれと言って来たら、「バカに遭遇した」としばらく笑い話のネタになるだろう。

ただ、度胸だ。

俺はカリスマ教師を見た。眼帯を左眼に付けて右手に包帯を巻いている。

周りの男子は「厨二病のフリ」と言うが、女子は「サービス」と言っていると聞いたことがある。

俺もあまり覚えていないが『HENDA×HENDA』の作者の前作が派中らしい。教師は生徒からどれだけ信用されてどれだけ畏れられるかが勝負の世界だ。実際、鬱病になる教師は比較的他の職業より多い。

俺はため息を吐くと教師に精一杯の土下座をした。

「この山下!財布無くしました!!5万円貸して下さい」

カリスマ教師・友久は不良達と仲良く密談していた所を俺に邪魔され、眉を顰めたが、直ぐに笑顔になった。

「やぁぁああまぁああしたぁ!!!ちゃんと返せよ」

俺は飛んで行く旅客機の揺れを夢中に感じながら、おずおずと顔を上げた。

友久は怖い顔を作って見せているが、内心頼られて誇らしげなのが見て取れた。面長のまだ20歳になったばかりでも通る程、若々しい凛とした顔立ちに勝ち誇った笑みを浮かべている。

友久にとって、山下は得体の知れないエイリアンのような男なのだ。それは常々把握している。何と言っても誰にもコントロールされない中3男NO.1なのだ。

俺は友久から、金を毟り取ると颯爽とお土産コーナーに行った。

最中のような饅頭のような和菓子に目が泳ぐ。バニラクッキーも映え感素晴らしく、1人考え事をしていた。

しばらく、ずっとその場で佇んでいた。

人の声が一つも聴こえなくなっておよそ30分後、ようやく異変に気付いた。

土産屋の灯り以外全ての灯りが消えている。

消灯時間にしてはまだ早かった。消灯時間は22時と説明されており、今は19時だ。

人がいない。

俺は宙を舞っていた。

下に行くとヤツらがいる。

ヤツらーー。

恐竜のような透明な亡霊のような存在。

俺は笑った。俺は山下友久。この旅行の前に死んでいる。俺が見える者を探している。

旅客機から中3の頃落ちて死んで、それ以来、霊として教師や生徒に紛れ込んでいたのだ。今日、生きていれば23歳を迎える。

俺は、針地獄の中、恐竜としてずっと藻掻いていたのだ。

魂は永遠と言う。苦しみを伴わないとも言う。一方、地獄は存在するとも言う。

結論から地獄は有る。ただし、苦しくないのだ。

宙を舞い続け、時々、生きていた時の夢を見る。無限の恐竜時代を遡る。

俺は幸せだった。

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