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虚構のシスイ ~異世界に不法投棄されたおじさんは、世界の最果てに名を刻む~  作者: yagi
第二章 愛情星骸ガナグリ 第一幕 コタンカ
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11 吉凶を示す碧い鳥

 青緑の巨大な体は日光に当てられて虹色に見える。翼にはノコギリのような長い爪を持つ。嘴はオウムのように曲がっていて、ニワトリのような立派なトサカを冠のように被っている。


 イナシュベリルス。

 セシアちゃんとゴブリンの駆除をしたときに見た巨大なドラゴン。そのオリジナルだ。

 イナシュベリルスは水かさが増えた川の手前に座り込んでいる。


「なるほど、こいつなら納得だ」


 実際に遭ったことがあるから分かる。

 あの翼に生えた爪は中々に鋭利だ。普通の木であれば、ただ横を通るだけで切れてしまう。この巨木も切断することが可能だろう。


 どうして切ったのかも明らかになった。

 イナシュベリルスの足元にはボウラァトットゥラの枝が大量に敷かれており、ボウルのような形をしている。その形状から巣であることを察せた。巨木の枝木を巣の材料にする為に切ったのだ。運が悪いことに木を倒したら川がせき止められてしまった、というのがこの事件の筋書きだろう。


「どうする、戦うか」フェリーは眠気が覚めたらしく、早々に臨戦体を取る。


「こっそりどかせないかな。ああ、でも、どかすにしたって人を呼ばないといけないか。参ったなあ」


 パキッ!

 木の枝を踏んでしまい、小気味良い音が鳴る。

 こそこそと話している声量と同じくらいの音だったが、高い音というのはよく通る。

 イナシュベリルスは音が聞こえた方を見て、固まった。

 ボクと完全に目が合った。


 ボク等とイナシュベリルス、どちらも動かない。

 石にされたようにぴくりとも。

 独特の緊張感。牽制し合う、という感じではない。ドラゴンから緊張感が伝わり、ボク等に伝播しているのだ。頭をフル回転させて状況を整理しているのが分かる。


 どれほど長い沈黙か。

 数十秒か、それとも数分か。

 同じ姿勢が辛くなってきた頃、イナシュベリルスはその場から飛び立った。

 尻尾を巻いて逃げるように。

 敵意さえ向けることなく、だ。


「逃げたな」拍子抜けしたのか、頭をぽりぽり掻くフェリー。


「どうしてだろう」


「竜、臆病。人間、怖い」


「怖い?」


「仲間狩られる、遠くで見てる、から。頭良い」


「なるほどね」


 だから逃げたのか。

 あの巨体は中々に強そうで敵なしに見えるが、そんな生き物を狩ろうとする、そして狩ってしまう人間はそれ以上に恐ろしいのか。


 あの凝視はボク等を見ている訳ではなく、過去に見た人間に凶暴性を覗いていたに違いない。

 であれば、あの個体はもう戻ってこないだろう。ここに人間が来ると知れば、きっともっと人里離れた場所へ移動する。


「けど、変。あの鳥、ここにはいない。別の場所、住んでた、はず」


 そういえば、似たようなことをセシアちゃんが言っていたな。

 彼女との会話を思い出す。

 ゴブリンを倒したときの記憶を。


「イナシュベリルスは本来この地域にいる生物ではないんです」


 フェリーがバラバラにしたイナシュベリルス型ゴブリンの破片を集めるセシアちゃん。細かくなった部分をパズルみたいにくっつけて、元の形に戻そうとする。けれど途中で馬鹿らしくなったのか、集めた破片をポイっと捨てた。


「イナシュベリルスがダアクック周辺で目撃された例はほとんどないんです。彼等の生息域はガナグリの火山付近の森林地域。このゴブリンも、きっとその地域から飛んで来たのでしょう」


「ほお」


「ですが、離れることは本来あり得ないのです。イナシュベリルスは人間を恐れますが、それでもその地域では頂点。それを模倣したゴブリンは彼等に並ぶ存在でしょう。例え人間に追われようが、住んでいる地域が火山地帯ですから人間が来れない場所はいくらでもありますし、ゴブリンに人間を恐れる感情なんてないです。蹴散らして終わり」


「けれどダアクックに来た」


 セシアちゃんがコクリと頷く。


「どんな環境でも適応するゴブリンですら増殖が著しく不向きの環境だと判断した。何か異変がガナグリで起きている、と私は考察するのです。頂点捕食者が退く程の異変が」


 そう彼女は危惧していた。

 これからボク達が向かう場所もガナグリ。

 あのゴブリンも、今回のオリジナルも、幸せの碧い鳥とは言えない。

 どちらかと言えば、縁起の悪いものの類だ。

 けど、後回しだ。今はこの大木をどうにかしよう。


「まあ、ドラゴンは去ったことだ。これで心置きなく木を撤去できるね。集落の人も呼んでこの木を———」


 グラリ。

 突然、視界が歪む。

 景色が、世界が流転する。時が加速し、昼から夜になり、星が点から線へ、やがて円になって循環する。時間を含めた世界を俯瞰した幻風景。

 この感覚を、ボクは、知っている。

 けど、一体どこで……。


 意識が落ちる気配がした。


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