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46 同刻

 〈同刻 ダアクックから十数キロ離れた北の平原 タルポルポ〉



「うおおおおおおおおお!! パワアアアアアアアアアアアーーーー!!」


 平原にむさくるしい叫び声が響く。

 リアックの声だ。

 彼は卵七個と俺を馬車に乗せ、馬の代わりに引いて走っていた。


 彼が引っ張るのは、キャンプ地にあった木の板や、都合よく残されていた馬車の予備の車輪で作ったものだ。

 その場にいたギルドの調査員の中に、日曜大工の趣味を持つ人間がいて助かった。

 少しガタつくのはご愛敬だ。


 最初はリヤカーで事足りると思ったのだが、卵だけで積載量を優に超え、タイヤの方がイカレてしまった。

 卵は、サイズはヤシの実より少し大きい程度だが、四~五〇キロと異様に重い。

 だから、こうして馬車を作ったのだが……。


「リアック、お前よく引けるな! 素人作りのなんちゃって馬車だが重さ自体は本物だ。トータルで多分千キロはあるぞ!!」


「こういうときに役に立つと思って日々鍛えているんだ。当たり前だろう?」


「随分と特殊な場面を想定したトレーニングをする」


「そうか?」流れる汗を片手で拭う。


 そう雑談する余裕があることに、再度驚く。

 普通大人が数人で引けるような重さだろうに。

 それを引くのもそうだが、その状態で半日以上走っているのも中々におかしい。

 速度も馬並みだ。下手したら超えているかもしれない。

 普段頭がトンチンカンだと思っていたが、体はそれ以上のようだ。


 地面は舗装されていなく、凸凹している。

 軽くスコップで叩いたくらいか。そんな程度の舗装だ。

 この道は、普通の人間は通らぬ道。


 その証拠に、通る道には冬の朝に降りてくる霜のように若草が生えてきている。

 だから仕方がないと言えば、全くもってそうだ。

 けれどその分、やはり他の道と比べ、足取りは僅かに遅くなる。


「くっそう、早くダアクックにいるダイン団長に伝えなくちゃならないっていうのに。無線機が使えれば、こんな苦労はないんだけれど……」


 リアックはぼやく。

 それには全く同意だ。


「そうえいば、プロトタイプは使えないのか?」


「送られてきたメッセージは見れるけど、送信は全然駄目。卵があるからなんだろうな」


「そいつ、プロトタイプだから魔力伝達の良い水晶板が付いてるだろう? それで送れるはずだ」


「でも僕、水晶玉なんて使ったことないよ」


「貸しな」


 彼は胸ポケットから取り出すと、こちらに投げる。

 俺が使うときは「壊すなよ」と言う割に、扱いは乱暴だ。

 弧を描いて飛んで来るそれをキャッチすると、木にとまる昆虫のように水晶プレートをホールドしている機械を触り、文字を入力する。文字数上限は三〇。


『電波障害の原因判明 街に向かってる 説明するため至急北門に来い』


 こんなものだろう。

 十分伝わるはずだ。


「それで、緊急連絡をするにはどういうコマンドが必要なんだ?」


「文字を入力する前に『コード・レッド』って入れるんだ。それを文の前に入力してから書く」


「……」


「もう書いちゃったか?」


「ああ、全部書き直しだ」


 合言葉、みたいなものなのだろう。

 水晶玉での連絡の名残りが残っているのかもしれないと考察する。

 しかし、それにしたって、三〇文字制限での七文字というのはあまりにも負担が重く、もっとマシな合言葉も考えられただろうと、思うのであった。



 ……

 …………

 ……………



 〈ダアクック ギルド ダイン〉


 ギルドの階段を駆け下りる。二段飛ばしでだ。

 背中に携えた大盾が、段差ごとに揺れる。

 一階まで降り切ると、最短距離で入り口まで早足で向かう。


「ダイン。お出かけかしら?」


 ふと、カウンターから声がして、そちらを向くと、リズがカウンターに寄り掛かるように立っていた。


「へぇ、今日はお淑やかなんだな」


「茶化さないで頂戴。それで、何をそんなに慌ててるのかしら?」


「リアックのプロト(プロトタイプの略称)から連絡があった。『コード・レッド 北門 至急来られたし 無駄な七文字暗号も改善せよ』ってな」


「また緊急連絡? 何かの間違いとかではないの? ほら、以前あったでしょう。不具合での緊急連絡をしてしまったことが。今は電波障害で送れない状態だというのに、届くのは不自然に見えるけれど」


「いんや、こいつは信用できると思うね」


 顎の髭を親指の腹で撫でながら言う。

 このとき、自然とガルダリアが内面に浮上してくる。

 それに気づいたのか、リズは眼鏡を掛け直した。


「それはどうして?」


 俺はポケットからプロトを出す。


「リズ、今俺に連絡を送れるか? 文字の入力はしなくて良い」


「はあ。多分無理だと思うわよ」


 彼女は事務所に常備してあるプロトを持ってくる。

 無線機のプロトタイプは俺の団メンバーの他には、ギルドの事務所に一つと、各城門に一つずつ備えられている。

 彼女は手元を見せながら、送信ボタンを押した。

 勿論、連絡は来ない。


「ほら、やっぱり」


「ということは、この緊急連絡は電波ではなく、魔力によって送られたものだと考えて良い。つまり、誤作動じゃなくて、人の意思によってってことだ」


「でも、そうなってくると、もっとおかしな話じゃない? リアックに水晶での連絡は無理よ?」


「十中八九別の人間が連絡したんだろうさ。タルポルポ辺りなんじゃないかって思うね。メッセージを打ったのも、きっとアイツだ。となると、リアックの思い込みで発信されたものではないことも分かる。複数の人間が緊急性があると判断したなら、度合いは図れなくとも、重要には違いねえ」


 思考の回転数が落ちると、段々ダインに戻っていく。


「なるほど。納得したわ」


「もしかしたら、しばらく留守にするかもしれねえからよ。その間、お前にギルドを任すぞ」


「バウアーは……そうだ、いないのね。分かったわ。気が進まないけれど、店番くらいはしてあげる。でも、もし何かあっても、あまり私を責めないで頂戴ね。事務はできても、運営は専門外なんだから」


「ま、滅多なことは起きねえだろ」


 その言葉に眉をひそめるリズ。

 どうやら不満があるらしい。


「そういうときに限って嫌なことは起きるものよ?」


「ああ、分かった。なるべくすぐ戻る。じゃあ、任せたからな」


 俺はそういうとギルドを出て、急ぎ北門へと向かった。

 そういうときに決まって嫌な事は起こる、か。

 同感だ。

 彼女同様、俺の内心に嫌な予感というのが、暗雲のように立ち込めていた。

 杞憂であれば良いんだが……。


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