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第九話 「最強のコンビ」

 リリィのもとへと向かう道中、俺とヴァイスはレイスの集団に遭遇していた。


 俺はケツをフル稼働させ、右へブボッ! 左へプスッ! 真正面にドドドドドォォォ!!


「ふははははッ! 見ろヴァイス! 屁の嵐だ! レイスどもを俺の屁で殲滅してやる!!」


「……おならってすげぇ!!」

 

 亡霊たちは鼻を押さえ、苦悶の声をあげながら次々と霧散していく。しかし、倒しても倒しても、相手の数が減っていると感じられない。


「っ……まだこんなにいるのかよ!」


 周囲を見渡せば、墓石の影、木々の間、地面の裂け目から、次々とレイスが湧き出してくる。


 十体、二十体……いや、もっとだ。


「くそ!数が多すぎて屁が追い付かねぇ!」


 レイスの軍団は迫る。だが、俺はケツを酷使している。立て続けの屁魔法で、もうガス欠寸前だ。


「ぐぬぬ……よし、こうなったら俺も魔法を使う! 光魔法だ! こういう時こそ光の出番!」


  ヴァイスは剣を掲げ、胸を張って詠唱した。


「光よ! 我が剣に宿れ! ホーリーなんちゃらブレードォォォ!………あれ?出ない」


「おいィィィィ!!」


「くそっ! 俺は光属性に憧れてただけで、まともに使えたことねぇんだった……!!」


「じゃあ他の魔法にしろよォォォ!!」


「くそ、もう何でもいい! ヤケクソだッ! 燃えろォォォ!!」


 ヴァイスが絶叫しながら再度、剣を掲げた瞬間―― その剣に炎が灯った。


「……お? おおおおおおおお!? 燃えたぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「ま、マジかよ!? お前炎属性使えるのか!?」


「俺、炎魔法いけるじゃん! すげぇ! 天才か俺!!」


 炎の剣が夜の墓地を照らし、轟音と共にレイスが次々と焼き払われていく。


  ヴァイスはまるで、子供が新しいおもちゃを手に入れたみたいに剣を振り回していた。


「見ろタイシ! 炎の剣だぞ! かっこいいだろ!?」


「お前ほんとに今初めて成功したのかよ!? 無駄に様になってんじゃねぇか!」


 レイスの群れは炎に怯え、後退していく。


「これはいけるぞ!」


 そう呟いた俺の耳に、重低音の呻きが響いた。


 レイスたちの背後――墓地の奥で、大きな影がもぞりと動く。


「……な、なんだあれ」


 そこから現れたのは、無数の亡霊を鎧のように纏った巨大なレイスだった。 眼窩の奥で青白い光がギラリと光り、口からは煙のような息が吐き出される。


「ボ、ボスか……! レイスの親玉だ!!」


「デカすぎるだろォォォ!! どうすんだよこんなの!」


 巨体は腕を振るうだけで衝撃波を生み、墓石を粉砕した。


 俺もヴァイスも吹き飛ばされそうになりながら、必死に踏ん張る。


「や、やべぇ……あんなの、倒せるのか……?」


「わからん……だがやるしかねぇ!」


 俺は全力で尻を突き出し、渾身の一発を放つ。


 ――ブボォォッ!!


 衝撃波のような屁が霧を切り裂く。


 だが巨大レイスは片手で鼻を覆っただけで、ほとんど怯まない。そして、青白い目をギラリと輝かせて、巨大な腕を振り下ろしてきた。  


「うおおおおおッ!?」


「くそっ、効きが甘い……!」


 必死に回避する俺。屁袋も限界に近い。


 一方のヴァイスは炎剣を振るうが、霊体が大きすぎて一部を焼くだけ。その焼いた一部もすぐに修復されてしまう。


「効かねぇ! こいつ、並の炎じゃ焼き切れねぇ!」


「じゃあどうすんだよ!?」


 その時だった。ヴァイスの剣から漏れる炎を見た瞬間、俺の脳裏にとんでもない閃きが走った。


「……なぁヴァイス」


「なんだ!」


「お前の剣、ちょっとケツに貸せ!」


「なぜ!?」


「屁をぶっかける!」


「お前正気か!?」


「屁は俺の全てだ! 信じろ!」  


 ヴァイスは一瞬だけ眉をしかめたが、次の瞬間、覚悟を決めて剣を差し出した。


 俺は腰をひねり、渾身のケツを向ける。


 ブボオォォォォン!


 焼き芋の最後の力を絞り出すように、猛烈なガスを炎剣へと叩きつけた。


 ボォォォォォォォォッ!!!  

 

 炎が爆発的に燃え広がり、剣全体を紅蓮の奔流が覆う。熱と臭気が融合したその刃は、まるで太陽の一欠片を握ったかのように輝く。


「な、なんだこれ……! ケツと炎剣の……融合……!?」


「名付けて――屁炎剣へえんけんだァァァ!!」


「カッケえぇぇぇぇぇ!!」


 ヴァイスは渾身の咆哮と共に跳び上がり、巨大レイスに向かって炎剣を叩き込んだ。


「くらえぇぇぇぇ!! 屁炎剣ッッッ!!」


 ズバァァァァァァン!!!


 轟音と爆炎。


 爆炎の剣が巨大レイスを真っ二つに切り裂いた。


「グワアアアアアアアアア!!!」

 

 断末魔と共に、巨体の霊は光の粒子となって霧散していく。

 

 残されたのは澄んだ夜風と、まだ微かに漂う屁の匂いだけだった。

 

 しばしの静寂。

 

 俺とヴァイスはその場にへたり込み、肩で荒い息をついた。


「……勝った……のか?」


「ああ……俺たちの、屁と炎の力でな……」

 目が合った瞬間、俺たちは同時に笑った。くだらなくて、馬鹿馬鹿しくて、でも確かに最強だった。


「……よし。次こそリリィの屋敷だ」


「おう。屁と炎剣コンビ、出陣だ!」


 冷たい墓地の風を背に、俺たちは再び歩き出した。


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