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第三話 「初クエスト」

 Cランク冒険者と認定された翌日。俺、原井大志は、弟子のリリィとともにギルドを訪れていた。目的はもちろん、冒険者としての初クエストだ。


「どのクエストを受けようか」


「そうですね……これなんてどうです?」


 クエスト掲示板にびっしり貼られた依頼書の中から、リリィが一枚を指さす。

 

 それは、ウヨキト村という田舎村の村長からの依頼だった。


「なるほど、村の畑をモンスターに荒らされているのか」


「師匠なら、ウヨキト村周辺に出るモンスターくらい、屁でもないですよ」


「屁でも……まあ、そうだな」


 俺の秘密、それは“屁”。誰にも言えない、誰にも気づかれてはならない――だが、最強の爆発力を持つ屁属性魔法の使い手。それが俺だ。


「よし、これにしよう。出発だ」

 

◇◇◇

 

 ウヨキト村へ向かう道中、広がるのはのどかな田園風景だった。


 畑、畑、牛、畑。そして、たまに屁。いや、それは俺のせいだ。


「空気が美味しいですね~」


「俺の屁と混ざってなければな」


「へ?」


 リリィが眉をひそめる。


 そんな軽口を叩いていると、のどかな農村、ウヨキト村が見えてきた。


 しかし、畑は見るも無残な姿だった。あちこちに穴が開き、作物はぐしゃぐしゃ。トマトは潰れ、キャベツは芯だけを残し、地面に転がっていた。


「これはひどい……」


「おぉぉ! 来てくれたか!」


 駆け寄ってきたのは、白髪まじりの村長、グレッグ爺さんだった。


「ワシが村長のグレッグじゃ。よく来てくれたな。おかげで、希望の光が見えてきたわい!」


「依頼内容は確認しました。畑を荒らすモンスター、ですね」


「そうなんじゃ。夜になると、どこからともなく現れて畑をぐちゃぐちゃにしていく。土の中からブッブッと音がしてな……姿を見たのはワシ一人じゃが、あれは……“ブリモグラ”じゃ!」


「ブリモグラ?」


「屁のような音と共に地を掘る、地中モンスターじゃ。すばしっこくて、なかなか姿を見せん。困ったやつよ」


「ようは屁モンスターか…」


 俺の顔が自然と引き締まった。


 屁には屁で対抗せねばならない。それが屁道だ。


「もう被害のない畑は少ないからのぉ。今夜、畑を守ってくれ。頼んだぞ!」


◇◇◇

 

 その夜、俺はかかしのフリをして全裸で棒に縛り付けられていた。


 これはリリィの作戦だ。ブリモグラは警戒心の強い魔物らしい。そのため、かかしのふりをする必要があった。


「……なあリリィ」


「はい?」


「なんで全裸なんだ?」


「かかしのリアリティ追求です。ほら、田舎のかかしって意外と裸のやつ、多いじゃないですか?」


「見たことねぇよ」


 リリィが目をそらす。これは……完全に趣味だな。ムッツリめ。


 彼女は少し離れた畑の外れで、魔法の杖を構えて待機していた。


 さすがは俺の弟子。優秀だが、やや性癖に難あり。


 そんなくだらないことを考えていたときだった。


 ブブッ……ブッブブブッ……!


 突如、地面が振動し、あたりに屁のような異音が響き渡る。まるで下痢気味の大男が地中を這い回っているかのような音。


「来たな……ブリモグラ!」

 

 俺は一気に縄を引きちぎり、おならブーストで跳躍!


「同じ屁道を極める者として、手加減はしない! 奥義――屁流爆裂落地ヘ・ストラトス・クラッシュ!!」


 宙を舞った俺のケツから炸裂する超加圧屁が、大気を裂いてブリモグラの頭上に直撃!


 バッゴォォォォン!!!


 地響きとともに、土が波打つ。爆風が畑を薙ぎ、衝撃波で地面は陥没。ブリモグラは抵抗する間もなく、地中にめり込み、しゅぼおぉ……と情けない屁音を残して沈黙した。


「やった……!」


 そのとき、突然リリィの叫び声が聞こえた。


「きゃああああ!! 師匠ぉぉぉ!!! トマトがぁぁぁ!!!」


 辺り一面、畑は更地。トマトは吹き飛び、キャベツは粉々。まさに“収穫前の地獄絵図”だった。


「おのれ……おのれ……!」


 怒りに震えながら、村長グレッグが近づいてくる。


「貴様ァ……畑を……わしらの畑を……!!」


「待ってくれ村長! たしかに畑はやられた。だが、ブリモグラは倒した。これは、勝利だろう?」


「屁理屈をこねるなァァァァ!!!」


「屁だけに?」


「……殺す」

 

 グレッグ爺さんはめちゃくちゃ強かった。ギルドに依頼なんてしなくても、自分でブリモグラを倒せたと思う。


◇◇◇

 

 結局、報酬は半額にされ、俺は腫れた顔さすりながら村を去ることになった。だが、ブリモグラの被害は確かに止まり、村の畑は再生を始めたらしい。


「師匠、やっぱりすごいです。あれだけの風魔法を使えるなんて」


 リリィが目を輝かせて言う。俺はうなずきながら、心の中で呟いた。屁のことは、まだバレていない。 俺の屁道は、まだ始まったばかりだッ!



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