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第二話 「冒険者に俺はなる!」

 異世界に転移し、屁で助けたリリィを弟子にした俺。現在は二人で森を抜け、冒険者ギルドへと向かっている。おならで倒したモンスターの報酬を貰うためだ。


 空は晴れ渡り、風は気持ちいい。そんで、ケツまわりのコンディションも絶好調だ。


「師匠は何者なんですか?」


 すると突然、リリィがそんなことを問いかけてきた。どう答えるのが正解なのだろうか。


 異世界人で、屁で爆死して、屁で飛んで、屁の推進力で魔物を撃破したと言っても信じてもらえるわけがない。そのため、少しボカして伝えることにした。


「遠いところからきた旅人さ。だから、この辺りのこととか色々教えてほしい」


 リリィは目を丸くしたあと、ぱっと笑みを浮かべた。


「そうなんですね。では、私に任せてください!」


 そう言って胸を張る。しかし……ない。膨らみが、ほとんどない。


「…まな板だ」


「ん?何か言いましたか?」


「いえ、独り言です」


 そんな会話を経て、俺たちは冒険者ギルドへと辿り着いた。


 街の中央にある立派な建物。人の出入りも多く、装備を整えた冒険者らしき人間たちが談笑している。


 ドアを開けると、カウンターの奥には眼鏡をかけた事務員風の女性が待っていた。


「はい、モンスターの討伐報酬ですか?」


「あ、はい。たまたま倒したっていうか……」


 リリィが横から説明してくれる。俺が屁で突撃した魔物は、なんでもこの地域でも手を焼いていたBランク級の魔物らしい。


「確認が取れました。確かに討伐対象です。こちらが報酬となります」


 小袋に詰まった銀貨数枚が手渡された。


「おぉ……これが金か……!」


 感動している俺に、事務員さんが告げる。


「もしよろしければ、冒険者登録もなさいますか? 今後、依頼を正式に受けられるようになりますよ」


 冒険者……か。屁で爆死して、屁で飛んで、屁で弟子を得た俺が、今度は屁で冒険者になる――いいぞ。実にいい流れだ。


「登録します!」


 こうして俺は、正式に冒険者としての一歩を踏み出した。


◇◇◇


 冒険者にはG~Sまでランクがあるそうだ。基本的にはGランクからのスタートだが、冒険者登録の際、ランク査定を受けることで高いランクから始められる。


 そんな情報を聞いた俺は即座に参加表明。試験会場へと足を運んだ。


 会場にはすでに十数人の受験者たちがいた。剣を背負った青年、豪腕の戦士、鼻くそをほじる中年男性など、いかにも「冒険者やってます!」感の強いやつらが揃っている。


 ちなみに俺の隣にはリリィがいる。彼女はすでに冒険者なので、試験に参加することはない。ただの見学だ。


 少し緊張してきたな。


 周りの受験者たちも緊張しているようで、会場には独特の雰囲気が漂っている。武器の手入れをする者や、準備運動をする者、他の受験者に鼻くそをくっつけて遊ぶ者など様々だ。


「そこのおやじ!俺たちに鼻くそをつけるんじゃねぇ!」


 おっ、剣を背負った青年が、鼻くそおじさんの行動に気が付いたようだ。


 そして、おじさんは受験者総出で袋叩きにされた。


「静まれ、受験者ども!これより、ランク査定試験を開始する」


 その一声のおかげで、鼻くそおじさんへのリンチは収まったようだ。


 声を上げた男は、ゴリゴリの筋肉マッチョだった。顔にある3本の傷跡が、歴戦の冒険者であることの証明となっている。


「俺の名はダゴス。ギルドマスターだ。貴様らのランクをこの俺が叩き出す。高ランクスタートの壁は厚い……舐めるなよ」


 凄まじい気迫だった。リリィが隣でビクッとする中、俺はただ静かに気圧されないよう仁王立ちしていた。


 くっ……プレッシャーで屁が出そうだ……でも今は我慢……!


 試験は、三部構成で行われた。


 第1試験は基礎体力測定だ。腕立て伏せ、腹筋、垂直飛び、短距離ダッシュ……など、異世界でも地味な内容だった。

 

 だがここで俺は魅せた。屁ブーストをうまく使い、あくまでちょっと身軽な男、程度にとどめておいたのだ。

 

 周りの反応が少し気になるな。


「おい……あの男、ジャンプで屋根まで届いてないか?」


「あいつの地面を蹴る音、なんで空気が抜けるような音なんだ?」


「かすかに…くさい?」


 試験官ダゴスが眉をひそめていたが、気のせいだろう。


 第2試験は模擬戦闘だ。


「ハライ・タイシと言ったか?貴様の相手はこの魔法使いのマールだ。勝つ必要はない。ただ、実力を見せてみろ」


「よろしくね~手加減はしないわよぉ~」


 ぶりっ子ボイスとは裏腹に、手に宿る火の玉がエグい。これは油断できなさそうだ。


「いっくよぉ~火球連打ァ」


 ドドドドドドォォォン!!!

 

 炎の弾が次々に発射される。しかも威力が普通じゃない。

 

 まずい!普通に喰らったら死ぬやつだ!

 

 俺は慌てて屁ブーストでバク宙し、射程外へ脱出するよう回避を試みた。


「ふふん、どこに逃げてもムダだよぉ?次はこれっ 《ファイア・リング》!」


 マールが魔法陣を描き、俺の周囲を炎で包囲しはじめた。


「これで私の勝ちぃ」


 逃げ場はない。なら――


「くそぉぉぉ……出すしかない!!」


 屁だ!!しかも、威力ではなく“成分”重視のガス屁――メタン特濃バージョン!!


「いけぇ……おなら放出!《ガス・クラウド》!!」


 プスゥ……ッッ!!


 かすかな音だが、確実に空気が変わる。立ち込めるガスが見た目に現れることはないが、匂いは超一級。


「な、なにこの匂い!?きゃはっ、くっさ♡」


 マールが一瞬ひるんだ、その瞬間だった。


 彼女の炎が、俺の屁ガスに触れた。


 ボンッッッ!!!!!!


 大爆発。

「ぎゃあああああああ!?!?」


「な、なにごとだ!?炎が…爆発した!?」


「…あの男何をしたんだ!?」


 爆炎の中心には、ススだらけでフラフラのマールがいた。幸い大怪我はなさそうだが、髪の先が焦げている。


「うぅ……まさか、あんな爆発になるなんて……うそぉ……」


 試験官ダゴスが顎に手を当てて唸る。


「不可思議な戦い方……だが、あれは紛れもなく“戦術”だ」


 最後の試験は魔力測定球に魔力を流すというものだった。


 地味にこれは難関かもしれない。なぜなら、俺の魔法はケツから出すものだからだ。魔力測定球にケツを向けるやつなんていないだろう。


 次々と受験者が魔力測定を終え、とうとう俺の番が回ってきた。


「次、ハライ・タイシ。魔力を流してくれ」


「…はい」


 何かいい案など全く思い浮かんでいない。大ピンチ。緊張でお腹が痛くなってきた。屁が出そうだ。


「おい、次あいつだぞ」


「マールを倒したんだ。きっとすごいぞ」


 謎の期待をされている。こうなったらやるしかない。


 俺は魔力測定球に背を向けた。そして、音が出ないように力む。


 できるはずだ。原井大志、お前は今までいくつもの試練を乗り越えてきたはずだろ。思い出すのは、エレベーターの中。閉ざされた狭い静寂の空間で俺は、何度もすかしっぺを成功させてきた。まあ俺がすかしっぺをすると、乗客の鼻を押さえる姿や咳き込む姿が目に入ったことは多々あるが、きっと体調を崩していただけだろう。


 いくぞ!


 無音屁サイレント・ガス……発射ァ!

 

 ポフッ……


 すると、測定球がうっすら紫色に光った。


「な、なんだ!?今までにない魔力測定球の反応だ」


「それより、あいつ背を向けたまま魔力測定を行ったぞ!」


「正面を向く必要すらないってのかよ!」


「…なんか臭くね?」


 ふぅ……ギリギリ成功だな。


◇◇◇

 全試験を終えた俺に、ギルドマスターのダゴスが唸りながら近づいてきた。


「……面白い。貴様、見かけによらず只者ではないな」


「ありがとうございます」


「貴様にはCランクの実力があると判断する」


 お、これは結構高いんじゃいか?そう考えていると、他の受験者たちのざわざわとする声が耳に入る。


「Cランクだと!高すぎるだろ」


「Cランクスタートは歴代でも数える程度しかいないはずだぞ。今、王都で話題の天才冒険者と同格じゃねーか!?」


「…試験始まってからずっと臭いんだけど!誰か屁こいてるだろ!」



 こうして俺はCランク冒険者として、旅をしていくこととなったのだ。


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