第十二話 「俺を置いて先に行け!」
石造りの廊下を進むと、奥に巨体の男が立ちはだかった。
左手には体を隠せるほどの大きな盾。右手には両刃の斧。全身の筋肉は鎧の隙間から盛り上がり、まるでそこに壁があるかのように錯覚させられる。これより先に進むことは出来ない、そう本能が告げている。
「そこまでだ、侵入者ァ!」
低い声が響き渡り、屋敷全体が震える。
「誰だこいつ」
「ふん……わしの名はガイド。屋敷防衛隊長にして、絶対防御の盾を持つ男だ!」
ガイドはドンと盾を地面に叩きつけた。衝撃が走り、俺とヴァイスは思わず後ずさる。
「絶対防御って……嫌な予感しかしねぇ」
「なら、力ずくで突破するしかねぇだろ!」
ヴァイスが炎剣を振り下ろす。だが、その一撃は盾に弾かれ、火花を散らすだけだった。
「ぐっ……固ぇ!」
「屁ならいけるか! くらえぇぇ!」
ブボォッ!
衝撃波と悪臭のコンボを叩き込む。だが、ガイドは鼻ひとつ動かさず、盾で受け止めた。
「……なんだと!?」
「ふははは、無駄だ! 我が鉄壁の防御に傷はつかん!」
さっきまでの兵士とは格が違う。コイツとこのまま戦っても絶対勝てねぇ。
「タイシ!」
「分かってる! アレを使うしかねぇな!」
俺とヴァイスはうなずき合い、息を合わせる。俺は全身の屁袋を震わせ、ヴァイスは剣に炎を纏わせる。
「屁と炎……合体だァァ!!」
ボゴォォォォンッ!!
ケツから放たれた圧縮屁が、炎剣に吸い込まれる。瞬間、刃が灼熱の光に包まれ、轟音と共に輝いた。
「屁炎剣!!!」
眩い刃が闇を裂き、辺りを照らす。太陽にも負けない、この輝き。暗闇に映える屁炎剣の閃光は、神々しい。
「うぉぉぉぉぉぉ!!!」
ヴァイスが叫び、渾身の一撃を振り下ろす。ガイドは盾でそれを防ぐ。そして、轟音と共に盾は真っ二つに割れた。
「な、なにぃぃぃ!?」
ガイドの叫びと同時に、炎と屁の衝撃波が彼を吹き飛ばす。巨体が床を転がり、壁に叩きつけられ、ピクリとも動かなくなった。
「……やった、か?」
「ふっ……当然だろ!」
ヴァイスは剣を振り回しながら勝利の舞を始めた。屁炎剣の輝きに酔いしれ、雄叫びをあげる。
「見たかタイシ! 俺たちの剣が闇を切り裂く! うぉぉぉぉぉ!」
ぶん、ぶん、ぶん!
剣から火の粉が飛び散る。
「おいヴァイス、振り回しすぎだ!」
「いいや! この輝きは俺の魂そのもの! 今の俺は炎の舞い手ッ!」
その瞬間――バチッ。
「……ん?」
ヴァイスの服に火が移った。
「あっちぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
ヴァイスは全身を叩きながら、廊下をバタバタと駆け回る。
「あちゃ、あちゃちゃちゃちゃちゃちゃ!!!」
「おい落ち着け! 火事になるだろ!」
「燃える燃える燃える!! 熱ちぃぃぃぃ!!!」
俺は慌てて指差した。
「窓だ! あの窓を破って中庭の池に飛び込め!」
「うおおおお!!」
ヴァイスは助走をつけ、炎を纏ったまま窓に突っ込む。
ガシャァァンッ!
ガラスを粉砕し、中庭の池に一直線。
ドボォォォォンッ!
「……ふぅぅ……生きてる……」
何とか鎮火したようだ。池から顔を出したヴァイスは、とても情けない表情だった。
「はぁ……調子乗るからだ」
「う、うるせぇ……」
ヴァイスは池の中で、息を整える。そして、不意に真剣な表情になった。
「……タイシ」
「ん?」
「ここから先は、お前一人で行け」
「は?」
「俺は……服が全部、灰になっちまった。全裸で戦うなんてカッコがつかねぇ」
ヴァイスは震える手で剣を掲げた。
「だから……俺を置いて先に行け!」
夜の池に、炎剣の輝きが揺らめいた。




