第十一話 「ケツに電話がかかってきた!」
ジーム爺との不可解な邂逅を終えた俺とヴァイスは、夜の森を抜けていった。
木々の隙間から現れたのは、荘厳な石造りの屋敷。高い塀に囲まれ、門には二人の兵士が立っている。槍を持ち、鎧を着て、目つきは鋭い。
「……着いたな」
「ああ。ここが、リリィがいるはずの屋敷だ」
ごくりと唾を飲む。どうやってリリィに会うか。正面突破はリスクが大きすぎるだろう。
「ここは……忍び込むしかないな」
「おう。静かに行くぞ」
俺たちはそっと身をかがめ、茂みを伝って近づいていく。息を殺し、一歩ずつ慎重に。緊張で心臓が高鳴る。その時だった。
ぐるるるるる。
腹の奥から、不穏な音が響いた。
「……やべ」
「おい、どうした」
「……屁が出そうだ」
「我慢しろ! ここで出したら即アウトだぞ!」
必死で堪える。だが、ケツは正直者だった。
ブルブルブルブル。
俺の尻が、携帯電話のバイブみたいに震えだす。ケツ肉が小刻みに揺れ、ズボンの布地がぷるぷると共鳴している。
「お、おい……! お前のケツ、震えてるぞ! 着信音みたいになってんぞ!!」
「わかってる!! 今、ケツに誰かから電話かかってきてるんだよ!!」
「出るな! 切れ! 切れぇぇ!!」
しかし、もう限界だった。
ブボォォッ!!
夜の静寂を破る轟音。しかも、悪いことにそれは小さくもなく、派手で豪快な音色だった。
「!? な、なんだ今の音は!」
「おい、臭いぞ……な、なんだこの臭気……く、くっせぇぇぇ!! おえぇぇぇぇ!!」
兵士二人が同時に顔をしかめ、鼻を押さえて呻き声をあげた。目を白黒させながら、辺りを見回している。そして、彼らの視線がこちらに向けられた。
「や、やべぇ……完全にバレた……!」
「だ、だから我慢しろって言っただろうが!!」
兵士たちが槍を構え、こちらに突っ込んでくる。
「侵入者だァァ!!」
「くっせぇ……けど戦えぇぇ!!」
ふっ、君たちにはさらに極上の屁をプレゼントしてやる。
「くらえぇぇぇ!!」
ブボォォォッ!
至近距離からの屁魔法。衝撃波と悪臭が同時に炸裂し、兵士たちは鼻を押さえながら吹き飛んだ。
「ぐえぇぇ!?」
「おえぇぇぇ!! なんだこの攻撃ぃぃ!!」
門前で兵士二人がのたうち回る。しかし、それで終わりじゃなかった。屋敷の奥から、わらわらと兵士たちが湧いて出る。
「任せろ、屁で吹き飛ばす!」
俺は腹に力を込め、連続発射。
ブボッ! プスッ! ブシュゥゥッ!
右へ、左へ、正面へ。
屁の嵐が夜気を切り裂き、兵士たちをなぎ倒す。
「ぐああああっ!」
「くせぇぇぇぇぇぇ!」
「うぇぇぇ……ちょ、ちょっと吐く……!」
兵士たちは剣を振るう前に、次々と地面に転がった。だが、すべてを俺だけで片付ける必要はない。
「おらああああっ!!」
横でヴァイスが炎剣を振り抜き、燃え盛る刃で兵士の盾を一刀両断する。さらに炎が夜風に踊る。兵士たちをまとめて焼き払った。
「くっ……あいつら……ただ者じゃないぞ!」
「一人はケツが爆発してるし、もう一人は炎を操ってる……なんだこいつら!!」
生き残った兵士たちが、警戒しながらも俺達を囲む。俺とヴァイスは背中合わせになり、肩で息をしながらも不敵に笑った。
「……なぁ、ヴァイス」
「なんだよ」
「やっぱ俺たち、最強コンビじゃね?」
「ケツと剣で最強って、響きは最悪だけどな!」
笑いながらも、戦いはまだ終わっていない。屋敷の奥から、さらに足音が響いてくる。
「くそ……やっぱ正面突破は大騒ぎになっちまうもんだな」
「お前が屁を漏らすからだな!でもまあ、ピンチであればあるほど俺の炎は燃え盛る!」
次々に押し寄せる兵士達を相手にしながら、俺たちは少しずつ屋敷の中へと足を踏み入れていった。




