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第一話 「屁の可能性を感じた日」

 その日はやたらと雪が降っていた。天気予報で「警報級の寒波が…」とか言っていたっけ。俺こと、原井大志は面倒だと思いながらも雪かきを終えた。


 疲れた体を引きずりながら家に戻り、石油ストーブを点火。ジュゴーッという音とともに灯るオレンジの炎。ああ、文明って最高だな。


 で、だ。


 そのとき、俺の腹が突然ゴロゴロ言い始めた。原因は明らかだ。昨日の夜、調子乗って焼き芋3本も食ったからに違いない。


「…やべ、来るぞ」


 そう思った瞬間、俺は何の迷いもなく力を込めた。


 ブボォォオオッ!!!っという音とともに、見事なまでの放屁が炸裂した、その瞬間だった。


 ドガァァァァァン!!!!!


 爆発した。俺の屁にストーブの炎が引火して、大爆発。

 

 気がついたら、そこは真っ白でキラキラした謎空間だった。


「……え?」


 困惑していると、目の前に美女が現れた。ド直球に言うと、女神だった。


「あなたは…死にました。」


「え?屁で?」


「……はい。あなたは本来このタイミングで亡くなる予定ではありませんでした。あなたのオナラの威力が想定以上だったのです」


「へ?」


 予定にない死亡のお詫びとして異世界に転移させてくれることになった。さらに、転移特典として魔法を使えるようにしてくれるらしい。


 魔法には属性がある。付与される魔法属性はランダムであるが、生前の行動や性格が影響することもあるとか。


 俺は期待した。メラメラと燃え盛る炎属性や何にも囚われぬ自由な風属性を使えるかもしれない。あるいは、選ばれた者にのみ許された光属性、闇属性。面白くなってきたぞ。


「これは……!」


 女神は、ただでさえ大きな目を見開く。驚いた様子だ。


「もしかして、希少な属性か?…つまり光!?もしくは闇!?」


「…希少ではあるのですが、光や闇ではありません……風属性に近いと思います」


 風属性に近い?近いってなんだ?


 曖昧な態度の女神に痺れを切らして、問いただすことにした。


「はっきり言ってくれ。俺の属性が何なのかを」


 すると女神は、意を決したようにこちらの瞳を真っ直ぐに捉える。そして、口を開いた。


「……屁属性です」


「へ?」


 惚ける俺をよそに彼女は、はっきりと告げる。


「だから屁属性です!」


 その属性は名前から想像できる通り、おならを使って色々なことが出来るとのこと。


 最悪だぁぁぁぁ!


 俺は絶望した。だって異世界で無双して、ハーレムを築いて、何不自由ない生活を送れると思ったのに。


 もし、屁魔法で女の子を助けたとしてもーー


『大丈夫かい?お嬢さん』


『助けていただき、ありがとうございま……え?クサッ』


 って言われちまう!



 女神に何とかしてもらえるよう頼もう。そう思って彼女に視線を向けると、心なしかプルプルと笑い堪えるかのように震えて見える。いや、


「くふっ、、ふふっ、屁って、あはははは!」


 この女神、腹抱えて笑い出したぞ。


 こうして俺は、まさかの屁で爆死、異世界転移決定、魔法も屁、という屁に始まり屁に続く冒険に巻き込まれていくのだった。



◇◇◇


 目が覚めたのは、見知らぬ森の中だった。


「マジで転移したんだな…」


 空は澄んでいて、空気はうまい。


「試すか、俺の魔法……“おならバースト”」


 女神が言うには、魔法の発動は簡単らしい。そっとケツに意識を集中させる。そして、意識を解放――


 ブボォォォオオオッッ!!!!


「うわああああああああああ!!!!!???」


 ケツから噴き出すのは、暴力的なまでの推進力。 身体が勝手に加速する。そしてそのまま――


 森を!吹き抜ける!爆音と共にッ!!


「止まらん止まらん止まらん止まらん!!!」


 木をなぎ倒し、川を飛び越え、岩を貫通し、俺は屁で超音速ダッシュしていた。


 次の瞬間――

「キャアアアアアアアッ!!!」


 女の子の悲鳴。目の前に、大型の魔物が襲いかかっているのが見えた。


「止まらんけど!このまま突っ込むッッ!!!」


 ブボォォォッ!!!

 

 ケツ全開で突進!!


 ドガァァァァァン!!!!


 轟音とともに魔物は爆発四散。 地面がえぐれ、クレーターができた。


「…屁属性魔法、恐るべし」


 土煙の中、ゆっくりと立ち上がる俺の前に、腰を抜かした少女がいた。


 金色の髪が陽だまりみたいにきらめいて、ゆったりしたローブの裾を風がくすぐる。あどけなさを残した横顔が、ふいにこちらを見た。……とびきり、可愛い子だった。


「あ、あの助けていただき、ありがとうございます」


「え、あ、うん。たまたま、というか、いや、マジで止まんなくて」


「私はあなた様ほどの風魔法の使い手を見たことがありません!」


「えっ?」


「この世界であんな動きができるのは、“風の真理”に触れた者だけ。まさか伝説は本当だったなんて!」


 彼女は完全に勘違いしていた。 俺が屁で飛んできたとは夢にも思わず、“風の魔法使い”だと信じてる。しかも――

「お願いです!私を弟子にしてください!!」


「……は??」


「私、リリィって言います。風魔法を学ぶ者です。でも、どうしても上手くいかなくて……ですから、ご指導のほどよろしくお願いします!」


 ちょっと待て。俺は屁で移動しただけだぞ。そんでもって制御不能だっただけ。


 だが、今のは風魔法じゃないと何度言っても、彼女は聞く耳を持たなかった。


 リリィの目は本気だ。 憧れと、尊敬と、希望が混ざったような――そんな瞳だ。


「……まぁ、いいけど?」


 この世界について何も知らない。頼る相手もいない。第一、こんな可愛い子のお願いを断れない。


「ありがとうございます、師匠ッ!!」


 こうして俺は、屁で助けた美少女に弟子入りされる、伝説の風魔法使いになってしまった。


 でも、もう後には引けない。屁の力で、俺はこの異世界を駆け抜ける!


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