表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Noctuelles  作者: u2la
27/33

I-27

気がつくと天井が見える。意識に体がついてこない。人形のように重くなった体。自分はベッドの上に横たわっているのだと分かる。動かない左手。それは何かを握っている、というよりも握られている。虚ろな視界で意識を凝らすと、それはわたしの手を握りながら、ベッドに覆いかぶさるように伏せている彼なのだと分かる。


しばらくぼーっと部屋を見渡していると、彼はわたしが目覚めたことに気が付き、突然と柔らかく抱きしめてきた。


「本当にごめん。君の思うを愛を実現したいと思っているけれど、やっぱりどれだけ考えても、考えるほどに、それはどのような方法でも叶わないのだと分かってしまう。


私は君にとって他人なんだと思う。だから、君の言っていることは、君が求めるような意味で私には理解ができない。そこにもいつも何かが欠けているんだ。


君にとって夢は特別なものだったんだろう。でも、それが一体どんな体験だったのかは、私には分からない。その関係のもとで、君の言う愛の中で、私が君の夢で、君が私の夢であったならって思うよ。それならばお互いのすべてをその内に理解し合える。僕の気持ちを君に”このまま”届けられる。


でも。それでも。お互いのことを夢見ていたとしても、私と君は他人同士なんだ。それこそがお互いを指し示す夢と現実の距離だから。それがあなたとわたしの距離だから」


彼はわたしの手を握る。


「それに他人同士だからこそ、わたしとあなたは、こうやって触れ合い、お互いにぬくもりを交わすことが出来るのだから」


そういって彼は小さく微笑んだ。


彼は、ごめん、無理させるといけないね、と言って、わたしから離れる。


「実は君から夢の話を聞いた時、東洋の故事を思い出したんだ。夢の中で蝶として気持ちよく舞っていたところで男は目が覚める。その男は自分が蝶になった夢を見ていたのか、夢の蝶こそが本当の自分であって、人間の男である自分こそ蝶が見ている夢なんじゃないか、一体どちらなんだろうと不思議に思う」


当然その話はわたしも知っている。あの夢を見始めた時に、夢の謎を解くための手がかりのように考えた。


「それを聞いて思ったんだ。ここからは私の創作と解釈だけどね。


その男は夢の蝶に恋をする。そして、蝶に会うために眠りにつき、夢を見る。しかしそこには男が恋する蝶はいない。なぜなら夢を見ている時、自分自身がその蝶なのだから。触れたい相手は”そこ”にはいない。そんな誰よりも近くにいる、結びつき合っているはずの二人は、そうであるが故に決して”一緒になれない”。


君が言うようにこれが愛だとすれば、悲劇ではないかな。前に話したロミオとジュリエットの結末のような。愛する相手を目の前にしながら、こんなに近くにありながらその相手は自分の手が届かない全く別の世界にいる。生と死は決して混ざり合わない。混ざり合っては ”いけない”。それこそが生と死という言葉の本質だから。


だから、他人であることは、理解し合えないことは悪いことばかりではないと思うんだ。


他人であるからこそ、私は君に寄り添いたい。君のいる場所に、少しでも近づけるように私は努力する。それは矛盾した努力かもしれないけれど、そうしたい。君のいう愛の形とは違うかもしれないけれど、それでも私は君を愛しているんだ」


彼はわたしの手を握り、しばらくそうしていた。


「これからのことだけど」


彼は再び口を開く。


「夏に行っていた叔母の家。あそこにしばらく移って気持ちを休めよう。この前は連れいていけなかった場所もある。仕事もしばらく休むつもりなんだ。


学長にも謝罪してコンクールの再提出も辞退することにしたよ。仕事自体も必死になって焦っていたけど最近は少しうまくいっていなかったんだ。むしろこれまでが少し順調すぎたかな。


だから、君が何も気にする必要はない。これまでに稼いだお金もまだある。しばらくは何も考えずに暮らそう」


わたしは握られた彼の手をくっと握り返す。


「ありがとう。勝手なことをして、ごめんなさい」


今はそれ以上の言葉は出なかった。その代わりに少し涙が出た。握られた手から伝わる彼の体温は冷たかった。その温もりはそこにはない。寝起きだからか、わたしの勘違いか。


わたしに寄り添い続けようとする彼。愛は不可能なのだと分かりながら、同じ理解を得ながら、それでもそうしてくれる彼に一体はわたしに何ができるだろう。


理由が分からないまま、わたしに涙が流れ続けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ