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Noctuelles  作者: u2la
20/33

I-20

「今度演奏会をすることになったんだ。大きな会場ではないけれど」


「よかったじゃない。作曲だけではなく、演奏家としても注目されるようになってきたのね」


彼女はニコッと微笑んだ。そこに嫌味らしい感情は読み取れなかった。彼女は、少しずつ眠るようになっていた。結局人間は眠らなければ生きられない、ということのようだ。目の下にはまだ三日月のようなクマが残っているが、以来、彼女は少しずつ元気を取り戻しているように見えた。


バスルームで話して以来、時々彼女は夜の居間で、本を読みながら夢のことについて話すようになった。彼女にとって夢は大事なことでありながら、私が腫れ物に触るようにそれと関わることを避けていると指摘され、その誤りを自覚した私は、彼女の話に耳を傾け、自然にそれについて話すように努めた。続く戦渦に彼女の不安はまだ強く残っているようだった。彼女のことが心配であった私は、自分にできることは何かということを考え続けている。


そこで先日、知人のサロンから声掛けを受け、演奏会をする機会を得た。彼女に演奏家としての自分を見てもらったことは無かったから、これは彼女にも気晴らしになると思ったし、何よりも。


「それで今回なんだけど、君にも観に来てほしいんだ」


「あら、珍しいわね。どうしたのかしら」


「あまり私の仕事を君に見せたことがなかったから。最近は家にも十分に帰れていなかったし、少しは私のやっていることを君にも見てほしいと思ったんだ」


「てっきり、わたしを人に会わせるのが恥ずかしくて避けているのだと思っていたわ」


「そんなことある訳ないだろう」


「ごめんなさい、少し意地悪だったわね」


彼女は再び笑う。


「それで何を演奏するのかしら。あなたの自作曲や、お得意なロマン派も聞けるの?」


「そうだね。基本的には音楽院の関係者や、その知人友人が来る予定なんだけど、全て自作曲では面白みにかけてしまうから。分かりやすくみんなが好きなショパンやブラームスを入れつつ、になるだろうね」


100人ほどの入るサロン。作曲家としては、自作曲を聴衆に好きになって欲しいところだが、演奏家としては表現力の幅を見せたり、ある程度皆が知っている、もしくは皆が好きな曲を弾くことも演奏家としての人気や地位を確立していくには必要なことだった。


「わたしもショパンはお気に入りよ。少しはきちんとした格好でいかないとかしら。多少は身繕いをしていないと、妻としてはあなたに恥をかかせてしまうかもしれないわよね」


彼女は少し舞い上がっているようにも見えた。そんな張り切らなくても大丈夫なんだ。そのままでも君は美しくて目立つから。


「そんなに気にしなくていいさ。小さな演奏会だから、派手じゃなくて慎ましい格好で来てくれよ。来るのも知人友人だから、皆も自由な服装で来ると思う。それに、君の気晴らしになればと思っているから。場所は18番通りにある小ホールだ。私はリハーサルや準備があるから、一緒にはいけないけれど。19時に開演するから、その頃に来てくれればいいよ」


「わかったわ。楽しみにしているわね」


宝玉の胡蝶は不朽の籠より出で静夜に舞う。彼女の踊る髪を見ていると私は落ち着かなかった。

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