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Noctuelles  作者: u2la
19/33

I-19

知っている。わたしは普通ではないのだと。それでも、あなたはあの晩、夢のことも受け入れると言ってくれた。でも結局のところ、彼はそれを無いもののように考えている。見ないように、触れないようにしている。何も尋ねようとはしない。彼にとってのわたしは、本当のわたしの半分でしか無い。


わたしがあなたに求めたのは ”許容” ではない、”受容” なのだ。わたしはきちんと夢も含めた、わたしの全てを受け入れてほしいと思っているのだ。


やはりわたしとあなたの間には、未だに埋まらない大きな溝が横たわっている。ほら、いまもあなたは不可解というような顔をしている。あなたはわたしとは違う。


「じゃあ、君は彼女のこと、月にいる君のことをどう思っているんだい」


彼はわたしに鏡の向こうから、そう尋ね返してきた。そんなこと、この夢に気がついたときから、ずっと考えてきたこと。一瞬もその答えに悩むことは無かった。


「それはわたしよ。わたしはわたしの中に、愛で結ばれた夢と現実、二つの世界のわたしの間に隠し事なんてない。お互いがお互いを完全に理解しているの。その愛は損ねられることなく、無垢なままに、そのままにあるのよ。わたしはいつもそれを感じている」


彼はその言葉を聞いてから少々考え込んでいるようだった。


二つの世界のとわたしの間にある愛。それこそが夢と現実を強く結びつけ合っている。そして、今度はそれを夢と現実の間ではなく、この現実の中で目の前にいるあなたとわたしの間に得ること、それがあなたに求めているものなのだ。そこに到るための結婚。


でも、こうやって話して明らかになっていくのは、やはりあなたにはわたしの言葉が届かないということばかり。それをとても寂しく思う。


「お互いに完全に理解し合っていて、どちらも一つの同じわたしだというならば、なんで月での君の行動を思うようにできないんだい。それも間違いなく君なんだろう」


ほら、やっぱりあなたは分かっていない。


「言ってるじゃない。だから、それは二つの世界の環境が違うからよ。仮に同じ種を巻いても、育つ環境で違ったように育つのと同じことなのよ」


そういうと彼は暫く黙ってしまった。結局、わたしの言葉は彼に届かずにいるのだ。


ところが、彼が再び口を開いたと思うと、わたしの予想していなかった言葉を口にした。


「じゃあ、私は君を夢見ているのかな」


“私は君を夢見ている”。その言葉の意味を掴みかねる。


「どうして、あなたの夢の話が出てくるのかしら。あなたもまさか誰かの夢を見続けていたりするなんて言うのかしら」


とっさに冗談めかした。


「いや、いいんだ。忘れてくれ」


本当にわたしのことを分かっていないと思うには、その言葉は私を捉えた。彼の表情はどこか真剣味を帯びている。だが込み入った話だ。私自身ですら、よく分かっていないこともある。他人であるあなたが混乱するのも無理はない。


いずれにしても、これ以上話しても仕方がないと思った。久し振りに感情が動いて、どっと体に疲れがのしかかってくるようだった。暫くまともな睡眠を取っておらず、もう眠気には抗い難かった。夢への不安など忘れて今はとにかく眠りたい。そんな矛盾した欲求を抱いている自分が自嘲的に可笑しく思えた。


「なんだか疲れてしまったから、今日はきちんとベッドで寝ることにするわ。どうせ、いつかは寝るしか無いんだもの。


きつく当たってしまってごめんなさい。でも感謝しているのよ。これはわたしだけの問題だけれど、一人だけでは抱え込むには途方もないことだから。だから、聴いてくれてありがとう」


それは紛れもない本心だった。わたしは彼の前を通り過ぎてバスルームを出る。そこで、すれ違いざまに、彼に左腕を優しく掴まれた。振り返ると、彼はまっすぐにわたしの顔を見ている。


「これだけは伝えさせてほしい。君の言うことが上手く理解できなくて申し訳なく思っている。私にもっと理解する力があればと思う。これからも努力し続けるよ。力不足なりに、どんなことでも私は君の力になる。文字通り、どんなことでもだ。


私は君を愛しているから。それだけは、ただそれだけは忘れないで欲しい」


その言葉に彼の正直さを感じ、それを眩しく思う。わたしを捉える彼の澄んだ黒い瞳から目を離せずにいた。


でも、あなたはまだ気がついていない。”愛している” と言葉にすることが、どれだけ矛盾しているかということに。あなたがあちらの私のようにならない限り、あなたがどれだけ言葉を尽くしても、その愛はわたしには届かない。その思いは自分に反射して、あなた自身に向かって虚しく跳ね返っていくだけ。


あなたは、その言葉にわたしへの愛を見ているのかもしれないけれど、そうではないのよ。そこに映っているのは、あなた自身への愛なのよ。


その時が訪れるのを待たなければならない。あなたとわたしの間に本当の愛が結ばれるまで。あなたとわたしを隔て続ける無慈悲な鏡が取り払われるその時まで。


今のこの気持ちをどう言葉にしたら良いだろう。ふさわしい言葉が見つからない。言葉にすれば、何かがその指の間からすり抜け、こぼれ落ちてしまう。もし初めからそうであるならば。


「ありがとう」


わたしはその一言だけ返した。この言葉は、どうか鏡に映らないでいてほしい。

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