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カトリーナ・ミラーは淑女の鑑である

作者: 8

カトリーナ・ミラー(17)

ミラー侯爵家の令嬢で容姿端麗、成績優秀、素行も良い、まさに淑女の鑑である。

領地では民に愛され、学園でも身分問わず彼女の周りには様々な人が集まる。

いつも笑顔を絶やさず、気品溢れる彼女の姿に憧れる者は多い。


そんな彼女に対して


「カトリーナ・ミラー侯爵令嬢!貴女との婚約を破棄させてもらう!」


卒業パーティーで彼女の婚約者である第三王子ヘクター・アルバニス(18)はそう言い放った。

ザワつく会場。

皆思っていることは一緒だろう。

あの第三王子(バカ)ついにやりやがった…と。


「婚約破棄ですか。」

「ふっ!そうだ!私は君じゃなく、ここにいるカルメ嬢を愛しているからな!」

「で、殿下〜…//////」


完全に2人の世界に入っているが、今は"卒業パーティー"の真っ最中。

主役は卒業生全員(バカ含む)であり、皆最後の思い出作りに気合を入れていたというのに。

婚約者でもない令嬢をエスコートしてきたかと思えば大勢の前で婚約破棄を告げるなんて…無礼を通り越して王家の恥である。


「お2人共とてもお似合いですわ!」

「そうだろう!ミラー嬢は見る目があるな!」

「殿下、これまでお世話になりました。心からお祝い申し上げます。」

「物分かりが良くて助かるよ!」

「こんなこともあろうかと婚約破棄の書類を持ち歩いておりましたのでサイン頂けますか?」

「ん?あぁ!サインだな!もちろんだ!」

「ありがとうございます!確認もできましたので、どうぞカルメ嬢とファーストダンスを。」

「あぁ!行こうカルメ嬢!」

「はい!殿下」


中央で堂々と踊るバカ2人。頭の中はお花畑だ。

そんな2人を見ながらもカトリーナ・ミラーは微笑んでいる。

卒業生達も彼女の笑顔に胸を撫で下ろしファーストダンスを始めていく。

会場の雰囲気が盛り上がっていくのを見届けてから彼女は静かに去って行った。

事を荒立てなかったのは卒業生に配慮してのことだろう。さすが淑女の鑑である。


ところでお気づきだろうか。彼女の発言。


『こんなこともあろうかと婚約破棄の書類を持ち歩いておりましたのでサイン頂けますか?』


そう、彼女はわかっていたのだ。自身が婚約破棄されることを。

淑女の鑑と評される聡明な彼女が何故、こんな辱めを受ける形で婚約破棄をしたのか。

その理由はすぐ分かることとなる。


ー婚約破棄騒動から数週間後ー


「ねぇ、聞いた?ミラー嬢の話!」

「えぇ、帝国の皇帝陛下の元へ嫁いだのだとか!」

「しかも皇帝陛下からの求婚だったそうだ!」

「さすがミラー嬢だわ!第三王子にはもったいないお方だもの!」

「さらにすごいのはミラー嬢が精霊士だったことだろう!」

「この世にたった1人しか存在しない精霊士だもんな!」

「王家はよく反対しなかったわね。」

「出来ないでしょ。大勢の前でミラー嬢にあんな仕打ちをしたのだから。」

「これで完全に王家の威信は地に落ちたわね。」

「でもミラー嬢は一体いつ皇帝陛下と出会っていたのかしらね?」


カトリーナ・ミラーは淑女の鑑である。

いや、訂正しよう。

カトリーナ・ミラーは淑女の鑑を演じてきたのである。

愛する人と結ばれるために。


「リーナ、やっと君と一緒になれた。」

「何年も待たせてごめんなさい。」

「いいんだ、大変だったのはわかってる。」

「あなたの事を思ったら、どんなこともへっちゃらだったわ。」

「私も、あの約束がどんな時も心の支えになっていた。」

「ふふっ」


まだ第三王子と婚約をする前のこと、秘密裏にミラー侯爵領に訪問したお客様がいた。

帝国の皇位継承争いから一時逃れる為に。

2人は一緒に過ごすうちに惹かれあい約束をした。

いつか全てのことが解決したら一緒になろうと。


「私は皇帝になり君を必ず迎えにくる。」

「待ってるわアイン。何があろうと。」


彼が帝国に戻ったすぐ後、王家から第三王子の婚約者にと打診があった。

もちろんミラー家は拒否したが、王命という形で無理矢理第三王子の婚約者にされてしまった。

けれど彼女は約束を守るため着々と準備を進めていたのだ。

表では完璧な婚約者を演じ、裏では婚約破棄の機会を狙って精霊士という特別なチカラも隠していた。まさに脳ある鷹は爪を隠す、である。


「さて、これからどうなるかしらね。唯一の精霊士を侮辱したマヌケな王国は。」

「国王と第三王子はただでは済まないだろうな。」

「退位させてもその後を継ぐのは大変ね。民からの反感も凄いだろうし。ミラー家にも多額の賠償金を支払わなくてはならないし。」

「あのバカ王子は婚約破棄の書類に目も通さずサインしたからな。王族とは思えない程軽率だ。」

「まぁ、そのお陰で私達は何の障害もなく今一緒に居れるわけだけど。あれはちょっと、呆れるほどにバカな方だから。」


カトリーナ・ミラーが第三王子に書かせた婚約破棄の書類には、実は結構大事なことが記されていた。

要約すると第三王子に非があり、ミラー家には一切責任がないので今まで奪われた時間の分だけの賠償金と今後一切ミラー家への王家からの口出しはお断りすると言う内容だ。

それをあの王子、一切読まずにサインしたのだ。


「あの時の国王や王妃達の顔は傑作だったな。」


婚約破棄騒動後、王家はカトリーナ・ミラーを呼び出した。考え直して欲しいと。

けれどそこに皇帝が登場し、カトリーナ・ミラーに結婚を申し込む。もちろん了承。

すると王家から猛反対猛抗議を受ける。

そこでこの婚約破棄書類を見せると一同は絶句した。

それはそうだ、王家にとって損でしかないこんな書類にあろうことか王族の名が記してある。

しかもこれは卒業パーティーという公衆の面前で書かれたものなので目撃者が多すぎて隠蔽もできやしない。


「王位継承順位が低いからと、基礎教育を怠った結果よ。お兄様方と違ってだいぶ自由に育てられてたから。」

「ま、自業自得だな。散々周りから注意されただろうに聞く耳を持たなかったのだから。国王もあのバカ王子も。」

「せいぜい苦労すればいいのよ。」


その後、国王は国民からの大批判によって退位し第三王子は身分剥奪、愛するご令嬢とやらも(相当ごねたらしいが)一緒に北部へ飛ばされたのだとか。


「さて、今日は各国が集まるパーティーですから気を引き締めなくては。」

「大丈夫。今日の君も完璧だ。」

「ふふっ」


上品で洗練されたデザインのドレス、装飾品は派手でなくとも貴重なものを、香水は爽やかでありながら記憶に残るもので、身に纏う全てのものが彼女を引き立てるように。

優雅な所作と微笑みで人々の視線を釘付けにする。

今日も彼女は淑女の鑑である。


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