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妹は魔法少女になりましたか?  作者: 吉本優
6月

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98/137

18話 負の転換





―――――






(―――やりすぎちゃった〜〜っ!!)


 タクローと別れた後、月菜はそのまま日文研の手伝いに戻っていた。

 部屋の中には、和装体験用の衣装や古い文献、文化祭用に急ごしらえした展示物が雑多に並び、独特のカオスな空気を醸し出している。


「どうしたの? 顔が赤い」


「な、ななんでもないよー!」


 エヴァの一言に、月菜は反射的に否定する。

 だが、自分でも分かるくらい頬が熱く、視線が落ち着かない。


「うんうん、大好きなお兄ちゃんと一緒に学園祭を回れて楽しかったのですね」


「だから違いますってば!」


 ぶんぶんと首を振りながら、月菜は手伝い用の机を拭く。

 乾いた布が机の表面を滑る音だけが、やけに大きく聞こえた。

 どう取り繕っても、心臓の鼓動までは誤魔化せない。


「ふふ、否定が速い時ほど怪しいです」


「怪しくないよ!?」


「月菜さん、顔に幸せって書いてあります」


「書いてない!」


 エヴァは楽しそうに笑いながらスマホを操作している。

 その指の動きがやけに手慣れているのが、少しだけ気になった。


「でも本当にいい写真が撮れました。巫女装束の月菜さんと、袴姿のタクローさん。とても絵になります」


「……私にも送ってください!」


 思わず食い気味に言ってしまい、月菜ははっと口を押さえる。


「了解です」


 即答だった。


 資料棚を整理していた陽菜が、ちらりと二人を見る。


「仲いいよね、ほんと」


「えっ?」


「兄妹って聞いてるけど……それ以上に見える時あるし」


「そ、それは……」


 月菜は言葉に詰まった。

 否定したいような、否定したくないような。

 胸の奥で、曖昧な感情が小さく揺れる。


「……お兄ちゃんが優しいだけだよ」


「それを独占してる自覚、ある?」


「な、ないよ!?」


 少し声が裏返り、陽菜がくすっと笑う。


「冗談。でも……」


 陽菜はすぐに表情を引き締めた。


「月菜、疲れてない?」


「え?」


「さっきから、魔力の流れが少し不安定」


 月菜は無意識に胸元に手を当てる。

 言われてみれば、胸の奥がざわつくような、落ち着かない感覚がある。


「……そうかな」


「人が多い場所ですからね」


 エヴァも声の調子を変える。


「感情と魔力が渦を巻きやすい。特に今日は文化祭です」


 その瞬間――


 ぴりっ、と空気が微かに震えた。


「……今、感じた?」


 陽菜の低い声に、月菜も静かに頷く。


 背中をなぞるような、冷たい感覚。

 さっきまでの和やかな空気が、ほんの一瞬で薄れる。


「場所は……校舎側ですね。中庭寄り」


 エヴァの言葉に、月菜の脳裏にタクローの姿が浮かぶ。


「お兄ちゃん……」


「大丈夫です」


 エヴァがそっと肩に手を置いた。


「今のところ動きはありません。下手に動けば、周囲を巻き込む危険があります」


 星菜の言葉が、月菜の頭に蘇る。


『ニブラは、人が集まるところに現れる』


「……うん。でも」


 月菜は小さく息を吸い、顔を上げた。


「守るよ。みんなも、文化祭も」


 その瞳には、迷いはなかった。


『あのー、色々な衣装の試着ができると書いてあったのですが……』


「あ、いらっしゃいませ!」


 空気を切り替えるように、エヴァが声を張り上げる。


「ほらほら、月菜さんも陽菜ちゃんも接客ですよ!」


「ところでこの衣装、どこで準備したんですか?」


「勿論、自前です」


「……だから最近帰りが遅かったんだ」


 呆れる陽菜に、エヴァは満足げに胸を張った。


 部屋の外からは、変わらず楽しげな笑い声が聞こえてくる。

 それが今は、少しだけ遠く感じられた。





―――――





「タクロー、ようやく帰ってきたな……」


 お化け屋敷に戻ると、包帯だらけのショージが出迎えた。

 顔、腕、なぜか額にも白い包帯が巻かれている。


「ほぅ、ミイラにジョブチェンジしたのか?」


「んなわけあるか!!」


「この馬鹿が女の子の足ばっかり掴むんだから、色々大変だったんだからね!」


 ミアが腕を組み、鋭い視線をショージに向ける。

 周囲のスタッフやクラスメイトの疲れ切った表情を見れば、だいたい察しはついた。


「お化け役は脅かす係であって、捕まえる係じゃねぇからな?」


「違うって! 暗くて反射的に!」


「言い訳は営業停止を免れてからにしなさい」


「ま、次掴んだら営業中止だからな!」


「それは……知ってる」


 タクローは小さくため息をつきながら、屋敷の奥へ視線を向ける。

 黒いカーテンの向こうから、かすかに悲鳴と笑い声が漏れていた。


 紫苑祭は、表向きは平和そのもの。

 だが、胸の奥に引っかかる違和感は、まだ消えない。


(……何も起きないでくれよ)


 そう願いながらも、嫌な予感だけは、静かに膨らみ続けていた。




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