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妹は魔法少女になりましたか?  作者: 吉本優
6月

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第17話 文化祭ってハプニングの予感⑩






――――





 日文研の部屋を後にして、俺たちは人の流れから外れた中庭脇のベンチに腰を下ろした。

 校舎のあちこちから聞こえてくる呼び込みや笑い声が、ここまで来ると不思議なくらい遠い。

 木々に囲まれた中庭は、文化祭当日とは思えないほど落ち着いた空気に包まれていた。


「はー……」


 月菜が、わざとらしいほど大きく息を吐く。


「そんな疲れた顔するほどだったか?」


「したよ。お兄ちゃん、まさか日文研であんな事をしていただなんて……」


「それは否定しない」


 巫女服から私服に戻っているものの、月菜はまだどこかそわそわしている。

 色々と精神的ダメージの方が大きかったらしく、落ち着きがない。


「写真まで撮られると思わなかった……」


「あれは事故だ。不可抗力」


「絶対楽しんでたよね、田中さん」


「目が完全に趣味のそれだったな」


 そう言いながらベンチに深く腰掛け直した、その直後だった。


 月菜が、ごく自然な動作で俺の隣にぴったりと座り直す。


「……近くないか?」


「空いてるから問題なし」


「即答かよ」


 突っ込む間もなく、月菜は俺の腕に軽くもたれかかってきた。


「おい」


「疲れたんだもん」


「さっきまで元気だっただろ」


「今は甘えたい気分なの」


 そんなことを、当たり前みたいに言う。

 反論しようとして、結局言葉が出てこなかった。


 月菜は満足そうに小さく笑い、空を見上げる。


「文化祭、やっぱ楽しいね」


「ああ。想定外のことばっかだけど」


「それ含めて楽しい」


「強いな」


「お兄ちゃんと一緒だからだよ」


 さらっと言うな。

 心臓に悪い。


「なぁ月菜」


「なに?」


「無理なことは無理って言えよ。誰に対しても」


 魔法少女の件には触れず、言葉を選ぶ。


「……うん。でもね」


「でも?」


「お兄ちゃんと一緒なら、多少無理でも平気」


「それはそれで問題だ」


「問題じゃないですー」


 月菜はそう言って、今度は俺の腕をぎゅっと掴んだ。


「離さない宣言か?」


「うん。今日は文化祭だし」


「理由になってねぇ」


 周囲から見たら、どう見ても仲のいいカップルだろう。

 実際は兄妹なんだが、事情を知らない人間には関係ない。


 ……いや、事情を知ってても誤解されそうだけど。


「ねえお兄ちゃん」


「今度は何だ」


「また二人で回ろ?」


「今日だけじゃ足りないのか」


「足りない」


 即答だった。


「次は私が全部案内するから」


「それ、危険な匂いしかしない」


「大丈夫だよ。多分」


「多分って言うな」


 そのタイミングで、ポケットのスマホが震えた。


【タクロー、ヘルプ】


 短いメッセージ。

 内容を想像するには、十分すぎる一文だった。


「……月菜、悪い」


「呼び出し?」


「ショージが限界らしい」


「そっかぁ……」


 月菜は分かりやすく頬を膨らませたが、すぐに諦めたように立ち上がる。


「じゃあ約束」


「何のだ」


「またデート」


「兄妹で使う単語じゃない」


「えー、そんなことないよ! だって――」


 月菜はベンチから立ち上がり、俺の正面に回る。





「ーー私とお兄ちゃん、血が繋がってないんだよ!」


 ――そう。

 俺と月菜は血の繋がらない、いわゆる義理の兄妹だ。

 その事実を知っているのは、ごく限られた連中だけ。


「何も知らない奴から見たら、ただのブラコンとシスコンだぞ?」


「そんなの関係ないもん!」


 月菜は、迷いのない満面の笑みを向けてくる。


 ……多分だけど。

 月菜は俺に、恋愛感情を抱いているんだろう。


 でも俺としては――

 今の、この兄妹の関係が一番ちょうどいい。


「じゃあ決まりだね」


「押しが強いな、本当に」


「今さらでしょ?」


 そう言って、月菜はようやく俺の腕から離れた。


 ――兄妹としては、少し距離が近い。

 けど、それが月菜らしい。


 やれやれ、と心の中でため息をつきながら、俺は次の戦場――ショージの元へ向かう準備をした。





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