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妹は魔法少女になりましたか?  作者: 吉本優
6月

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第17話 文化祭ってハプニングの予感⑧





―――――






「えーっ、もう行ってしまうのですかぁ? もっといましょうよぉ」


 あの後も星菜は、何度も俺たちのテーブルにやって来ていた。

 そのたびに月菜の鋭い視線と、放送禁止用語が書かれた紙が俺の後頭部に飛んでくる。


「まあな……あんまり長居するのも良くないし」


 中等部アイドルがメイド服を着ているとあって、星菜のクラスのメイド喫茶には長蛇の列ができていた。


「そうそう、他のお客さんの迷惑になっちゃうからね!」


「とか言って、実はタクローご主人様がデレデレしてるのが嫌だったり?」


「そ、そんなことないもん!」


「はいはい、会計お願いな」


 これ以上、月菜を刺激しないでくれ……。


『せ、星菜ちゃん! 次のご主人様だけど――』


 会計を済ませようとした、その時。

 店内の空気が、目に見えて変わった。


「ふーん、いい感じの喫茶店だね」


 ……最悪だ。冥夜が来た。


「あれ、タクが何でここにいるの? ここ、タクには似合わないでしょ」


「それはお前も同じだ」


 突然の番長出現に、先ほどまで賑やかだった店内が一気に静まり返る。


「すみません。細めの不良ご主人様は出禁なので、早めにご帰宅願えますか?」


 星菜は笑顔だったが、目がまったく笑っていなかった。


「そんなピンポイントな出禁、聞いたことないよ? 僕はただ星菜の様子を見に来ただけ」


「そういうのは結構ですので、ご帰宅しやがってください♪」


 可愛い口調と、物騒な言葉の落差が怖い。


「……ま、星菜の姿が見れたし、今日はいいかな。行こ、タク」


「は? なんで俺もだよ?」


「いってらっしゃいませ、ご主人様、お嬢様♪

 タクロー先輩と月菜ちゃんは、また来てね!」


 ――いや、面倒になりそうだから二度と来ないよ。





―――――





「で、なんでお前が隣を歩いてるんだよ?」


 店を出た後、冥夜は当然のように俺たちについて来ていた。


「そんな硬いこと言わないでよ。星菜、ちゃんとメイドしてた?」


「……まあな」


 ちなみに反対側を歩く月菜は、露骨に冥夜を警戒している。

 無理もない。冥夜は悪い意味で有名だからな。


「そうか。星菜に手を出す奴はいなかった?」


「いたらどうする気だよ」


「――少し、やきを入れるだけ」


「物騒なこと言うな! いねぇよ!」


 仮にいたとしても、命知らずだけだ。


「あの……星菜ちゃんのお兄さんは、どうして来たんですか?」


 おずおずと、月菜が冥夜に尋ねた。


「さっき言った通り。星菜の様子を見に来ただけだよ。

 それと――悪い害虫が寄ってないか、ね」


 穏やかな口調なのが、逆に怖い。


「それにしても……タクと妹。全然似てないね」


「……ほっとけ」


 冥夜の視線が、じっと月菜に向けられる。


「君、タクの妹なんだよね?」


「は、はい……」


 月菜は小さく頷いた。

 肩が強張っているのが、横から見ても分かる。


「安心して。別に取って食ったりはしないよ」


「……それ、逆に安心できません」


 思わず口を挟むと、冥夜は少しだけ口角を上げた。


「相変わらずだね、タク」


 そのまま冥夜は視線を前に戻し、何気ない調子で続ける。


「でもさ、文化祭っていいよね。普段見ない顔が見れたり、知らなかった一面が見えたり」


「……急に何だよ」


「星菜も、ああやって笑ってると普通の女の子だなって思ってさ」


 一瞬だけ、冥夜の声が柔らいだ。


「だから――」


 ぴたりと、足を止める。


「星菜を巻き込むような真似をしたら、誰であろうと許さない。それが兄ってもんでしょ?」


 その言葉に、月菜が小さく息を呑む。


「……兄、か」


 俺は空を見上げて、軽く肩をすくめた。


「過保護にも程があるだろ」


「そうかもね」


 冥夜は、珍しくあっさり認めた。


「でも――君も同じだよ、タク」


「……は?」


「さっきから、ずっと月菜を庇うように立ってる」


 言われて初めて気づいた。

 無意識に、俺は月菜の前に半歩出ていたらしい。


「……別に、兄だから当然だろ」


「ふふ。やっぱり似てないけど、似てるね」


 そう言って、冥夜は踵を返した。


「じゃ、星菜の顔を見たし、僕は帰ろうかな」


「お前はクラスの出し物なかったのか?」


「うちのクラスは展示だし、部活の出し物には興味ないからね。それに群れるのは好きじゃない」


「ぼっちなのか?」


「……そういう事にしておいて」


 冥夜は手を振り、人混みの中へ消えていった。


「……行っちゃった」


 月菜が、ほっと息を吐く。


「怖かった?」


「……ちょっと。でも……」


 月菜は小さく笑った。


「星菜ちゃんのこと、大事にしてるんだなって思った」


「まあな」


 俺は月菜の頭に、軽く手を置いた。



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