第17話 文化祭ってハプニングの予感⑦
元気な声と同時に、ふわりと白いフリルが視界に飛び込んできた。
「……え?」
振り向いた先に立っていたのは、可愛らしいメイド服に身を包んだ少女――佐々木星菜だった。
紺を基調にしたクラシカルなデザインに、藍色のツインテール。どう見ても完成度が高い。
「星菜ちゃん……?」
「うんっ♪ 本日は――」
くるりと一回転。
「中等部アイドル系美少女メイド、佐々木星菜でーすっ!」
「……いや、自分で美少女とか言うか?」
思わずツッコミを入れるが、星菜は意に介した様子もなく、満面の営業スマイルを浮かべていた。
「月菜ちゃん、遊びに来てくれるよね? 今なら焼き立てクッキーとドリンク、サービス料金にしちゃうよ♪」
「えっ、いいの?」
「もちろん! 知り合い特典だから♪」
月菜の目が、きらきらと輝く。
「お兄ちゃん、行こう!」
「いや、まだ何も――」
「はい決定ー!」
星菜は有無を言わさず、月菜と俺の手を取った。
「ほらほら、早くしないと席埋まっちゃうから!」
「ちょ、引っ張るなって!」
ずるずると引きずられながら、俺は内心で溜息をつく。
これはもう、抵抗するだけ無駄だな。
――というか、冥夜はあの格好を見て何も言わないのか?
ミニスカメイド服姿。
もし月菜があんな格好をしていたら、俺は確実に落ち着かなくなる。
完璧な笑顔で先を行く星菜の背中を見つめながら、小さく息を吐いた。
どうやら、次の目的地は決まってしまったらしい。
―――――
『『『お帰りなさいませ、ご主人様♪』』』
クラスに入った瞬間、メイド服姿の女子たちの声が一斉に響いた。
なるほど、男子は裏方担当らしい。
「お帰りなさいませ♪ ご注文はお決まりですか?」
席に着くと、星菜がメニュー表を差し出してくる。
「はぇ……本当に『お帰りなさいませ』って言うんだな」
正直、これだけでお腹いっぱいなんだが。
「ご主人様ぁ、チェキも一緒に撮りませんかぁ?」
猫撫で声で、星菜がぐっと顔を近づけてくる。
「お兄ちゃん、鼻の下、伸びてるよ」
月菜の視線が、やけに鋭い。
「……伸びてねぇ。それに、デレデレしてたら冥夜が黙ってないだろ」
「もぅ、ご主人様ってば♪ そんな人のこと、気にしなくていいですよー」
星菜はさらに距離を詰めてきた。
「うふっ♪」
「…………」
分かる。
今、月菜は確実に怒っている。
「え、えーと……じゃあ俺は、さっき言ってた手作りクッキーとコーヒーで」
「……私もクッキーとオレンジジュース」
「ご主人様、お砂糖とミルクはお入れしますか?」
「いや、ブラックで」
「きゅーん♪ ご主人様、大人ですねぇ」
余計なことは言わないでくれ。後が怖い。
「せ、星菜ちゃん……」
「ふふっ。タクロー先輩がカッコいいから、ちょっとからかっただけだよ♪」
星菜はウィンクを一つ残し、去っていった。
「お兄ちゃん……」
「は、はい」
「お兄ちゃんは……年下メイドが好みなの?」
「えぇ……?」
別に好みってわけじゃない。
……嫌いでもないけど。
「……私に言ってくれたら、いつでも着てあげるのに……」
「え? 何か言ったか?」
「な、何でもない! とにかく、鼻の下伸ばしちゃダメだからね!」
「へーい」
「お待たせしました♪」
注文した品を運びながら、星菜が戻ってくる。
「それじゃあ、美味しくなる魔法をかけますね♪」
星菜は手でハートを作り――
「美味しくなーれ、萌え萌えキュン♪」
「……それ、やってて恥ずかしくないのか?」
見てるこっちが恥ずかしい。
「きゃっ、そんなことないですよ〜?」
「…………」
わぁ、目の前の月菜さん、すごく怖い。
「わ、私だってできるもん!」
月菜は立ち上がり、俺に向かって――
「お、美味しくなーれ……萌え萌えキュン♪」
「お、おぅ……」
迫真の月菜(現役魔法少女)による萌え萌えキュンが放たれた。
「くくくっ……月菜ちゃん、この魔法は人に向けるんじゃなくて、こっちにやるんだよ」
「////っっっ!!」
星菜の笑いを堪えた声に、月菜の顔は一気に真っ赤になる。
「月菜ちゃんがお兄ちゃん大好きなのは知ってたけど……まさか本人にやるなんてね。じゃあ、あとは兄妹水入らずで楽しんでね♪」
笑いながら、星菜はその場を離れていった。
「……月菜さん?」
「――今は、何も言わないで」
月菜は静かにクッキーをかじる。
「恥ずかしいなら、やらなきゃよかったのに――って、痛っ」
後頭部に何かが当たった。
丸められた紙だ。
「何だよ……」
広げてみると、そこには一言。
【憎しみで○すぞ?】
……あー。
周囲から向けられる視線が、殺気じみている理由がよく分かる。
三菜姫の二人と一緒にいれば、そりゃこうなるか。
――さっさと食べて、出ていこう




