第17話 文化祭ってハプニングの予感⑥
紫苑祭で賑わう校内。その喧騒から少し外れた場所に、ひときわ怪しい雰囲気を放つ小屋がぽつんと建っていた。
手書きの看板には、達筆とも殴り書きともつかない文字で【オカルト研究部】と書かれている。
そして、【あなた、○わよ】と。
「ここがオカ研の出し物なんだね」
興味津々といった様子で月菜が小屋を見上げる。
「月菜、今からでも遅くない。引き返そう」
正直な感想を言えば、近寄りたくない。
小屋自体は小さいはずなのに、妙な圧というか、嫌な予感しかしない空気を纏っている。
「もう、お兄ちゃん。オカ研の部員なんだから、顔くらい出さないとダメだよ」
「幽霊部員って言葉、知ってるか?」
「知らなーい」
にこっと笑いながら、月菜は容赦なくタクローの腕を掴んだ。
「ほらほら、行こ!」
抵抗むなしく、そのまま小屋の中へと引きずり込まれる。
―――――
「くくく……親愛なる部下のタクローよ。よくぞ来たな」
「誰が親愛なる部下だ」
足を踏み入れた瞬間、鼻をつくお香の匂いと、怪しげな装飾が目に飛び込んできた。
壁には意味不明な陣図、天井からはぶら下がる謎の飾り。どう見ても胡散臭い。
「時にタクローよ。ようやく我の手伝いに来たのだな?」
「去年のこと、もう忘れたのか? お前のせいで生徒指導室に呼び出されて、反省文三十枚も書かされたんだぞ」
ほぼほぼユウジンとショージの暴走に巻き込まれただけなのに、なぜ俺まで。
あの時、ミアだけが上手く逃げ切ったのを、俺は今でも根に持っているぞ?
「あ、ユウジンさん。違います」
月菜が慌てて割って入る。
「お兄ちゃんは、オカ研に顔を出しただけで、手伝いに来たわけじゃないです」
「むっ……月菜嬢と仲睦まじい姿を見せつけに来たのか? この薄情者め!」
「はいはい。薄情者はもう帰るから、一人で頑張れよ」
踵を返そうとした、その瞬間。
「待てぃ!!」
ユウゲンが大仰な動きで叫び、怪しげな水晶に手をかざした。
「折角ここに来たのだ。占われてゆけ」
嫌だ、と言う前に占いは始まっていた。
「ほうほう……見える、見えるぞ……」
「俺の顔がか?」
「違う! 雰囲気を壊すでない!」
いや、そもそもお前に他人の何が分かるというんだ。
「ふむ……お前は、近い将来、ある選択を迫られることになるだろう」
「何を?」
「知らぬ」
「そこを教えるのが占いだろ……」
適当にも程がある。
「次は月菜嬢であるな」
ユウゲンは今度は月菜の方へと向き直る。
「ふーむ……どうやら今、人間関係で悩んでいるようだな?」
「えっ!? な、なんで分かるんですか!?」
月菜が目を見開いて驚く。
「ん? 何かあったのか?」
「えーと……ちょっと、ね……」
歯切れの悪い返事。
その様子に、小さく眉をひそめた。
「月菜嬢。その悩みを解決するには、相手のことを知ることが大切であるぞ。なぜ相手がそのような行動を取っているのか。それを知るのだ」
「……そう、なんですね」
真剣な顔で頷く月菜。
「月菜、真面目に聞いてるところ悪いが、今のは占いじゃなくて人生相談だぞ?」
「ぬはははっ! 細かいことを気にするでない! 人は話し合えば、だいたい分かり合えるものだ。あまり物事を深く考えすぎるな」
「……はい!」
素直すぎる反応に、逆に心配になる。
「……もういいだろ」
「うむ! では二人とも、紫苑祭を存分に楽しむがよい!」
―――――
小屋を出ると、外の喧騒が一気に耳に流れ込んできた。
さっきまでの胡散臭い空間が嘘のようだ。
「……ねえ、お兄ちゃん」
「ん?」
「話し合って、相手を理解すれば……分かり合えるのかな?」
「さっきのユウゲンの占いのことか?」
少し考えてから、答える。
「正直、全部が話し合いで解決するとは思わない」
そんな世界だったら、とっくに平和になっているはずだからな。
「うぐぅ……」
「でもな、相手のことを知らなきゃ、何も始まらないのは確かだ」
「……うん!」
月菜の表情が、ぱっと明るくなる。
「折角の紫苑祭だ。今は楽しまなきゃな」
「そうだね! じゃあ……次はどこに行こうかなぁ」
パンフレットに目を落とした、その時。
「あーっ! 月菜ちゃんだ!」




