第17話 文化祭ってハプニングの予感④
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「ほんっっっっとうにごめんなさい!!」
月菜の強烈なふみつけにより、俺が負傷。
一旦休憩を挟むという事でお化け屋敷の入り口には【一時休憩中】の看板がぶら下がっている。
「いいよ……いずれこうなるかなと予想していたしな」
あんな暗闇でいきなり足を掴まれたら、そりゃ踏みつけたくもなるよな。
「ぎゃはははぁっ!! タクロー、マジでうけるぞ!!」
その隣では大爆笑のショージがいた。
「あんたのせいでタクローがこんな目にあったんだから、少しは反省しなさいよ」
そして、血まみれナースのミアが俺の手当てをしてくれていた。
「タクロー、めんご!」
「よし、次からはお前が俺の代わりをやれ。踏まれるのはすきだろ?」
「そりゃ踏まれるのはご褒美だけど、女の子限定だぞ?」
「そうね。ショージがやりなさい」
ミアがにっこりと笑いながら、きっぱりと言い切った。
「え、ちょ、なんで俺!?」
「あんたも男なら言葉よりも行動で示しなさい」
「いやいや、さっきの月菜ちゃんの反応はお化け屋敷としては満点だろ!?」
「その結果、タクローは踏まれてるんだけど?」
ミアの冷たい視線に、ショージは一瞬だけ目を逸らした。
「……まぁ、それは不可抗力ってやつで」
「不可抗力で済まされたら、俺の顔と体は今頃もっと平和だった」
幸い、骨に異常はないっぽい。
「本当にごめんね……」
月菜は深々と頭を下げたまま、顔を上げようとしない。
「ほらほら、もういいって。怪我も軽いし、踏まれたのは……まぁ、こっちが悪い」
「でも……」
「それに」
俺はわざと軽い調子で続けた。
「月菜があそこまでビビるって分かってるなら、陽菜ちゃんにするべきだったかな?」
「ちょ、タクローさん?」
陽菜が少し困ったように眉を寄せる。
「……あの時、止めきれなくてすみませんでした」
「いやいや、あれは無理だろ。あの状態の月菜を止めるのは、熊を素手で制圧するのと同じだ」
「熊扱い!?」
月菜が顔を上げ、むっとした表情になる。
「……ありがとう。お兄ちゃん。でも、陽菜の足を掴むのはダメ。掴むなら私のにして」
小さくそう言われて、思わず視線を逸らした。
「……はいはい、妹ラブコメよろしくですなぁ」
そんな空気をぶち壊すように、ショージが手を叩く。
「よーし! じゃあタクローはしばらく休憩中ってことで、その役は俺が引き受けようじゃねぇか!」
「本当に大丈夫なのか?」
お前がやったら女性から訴えられそうな気がするぞ。
「任せろって! 足を掴むだけだから掴むだけ」
嫌な予感しかしない。
「……いや、やっぱやめ――」
「よし、再開しまーす!」
ショージは俺の制止を聞かず、勝手に入口の【一時休憩中】の札を裏返した。
「おい」
「大丈夫大丈夫。警察沙汰にはしねーよ」
それは当たり前の事だろ。
「はぁ、私がやりなさいと言ってなんだけど、ほどほどにしなさいよね」
イキイキとするショージと呆れた感じのミアが持ち場に戻っていった。
「さて、もう十分楽しんだし……」
「楽しかった、のかな……?」
二人の温度差がひどい。
俺は壁にもたれながら、しばし様子を見ることにした。
……その時だった。
ふと、視界の端に誰かがいるのが見えた。
入口の影。
次の客――のはずだが、なぜか列に並んでいない。
さっきの、お化け屋敷の中で会った少年であった。
無表情で、こちらを見ている。
騒がしいはずの教室前で、その子の周囲だけが妙に静かだった。
……気のせい、だよな
俺が瞬きをした瞬間、少年の姿は人混みに紛れて消えていた。
「お兄ちゃん? どうかした?」
「いや……なんでもない」
そう答えながらも、胸の奥に小さな引っかかりが残る。
文化祭。
賑やかで、楽しくて、非日常な一日。
――なのに。
「まぁ、考えすぎか」
俺はそう呟き、再びお化け屋敷の方へ視線を戻す。
中から――
『うわあああああっ!!』
「ちょっ!!! 男に踏まれたくねぇーよ!!」
ショージの声が響いた。
「……あいつ、ちゃんとやってるみたいだな」




