第17話 文化祭ってハプニングの予感③
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『よっしゃ、みんな完璧! じゃあ、本番前の最終確認まで、紫苑祭を思いっきり楽しもう!!』
『『『おぉーーっ!!』』』
委員長・斎宮の掛け声と同時に、教室の空気が一気に弾けた。
張りつめていた緊張が解け、クラスメイトたちは笑顔で教室を飛び出していく。
「はぁ〜……緊張した……」
月菜は椅子に腰を下ろし、思いきり息を吐いた。
「お疲れさま。とりあえず、これ飲んで」
陽菜が差し出したスポーツドリンクを受け取り、月菜は一気に半分ほど飲み干す。
「ありがとう……。でもやっぱり主人公役って大変だよ。セリフ多すぎて、忘れそう……」
「大丈夫。もし飛んでも、私が何とかフォローするから」
陽菜はさらっと言ってのける。
「月菜、この後は紫苑祭を見て回るの?」
「うん! お兄ちゃんとね」
「……タクローさんと一緒に、か」
ほんの一瞬、陽菜の視線が泳いだ。
「え? なにか変なこと言った?」
「別に。私は日文研の展示が気になるから、そっちを見に行こうかな……色々と暴走してなければいいけど」
「じゃあさ、陽菜も一緒に行こうよ! お兄ちゃんのクラス、お化け屋敷やってるんだって!」
「お化け屋敷……」
そう言いながらも、月菜の内心は必死だった。
本音を言えば、一人でお化け屋敷に行くなんて絶対に無理。
だからこそ、陽菜を巻き込む作戦である。
「いいよ。お化け屋敷、行ったことないし」
「ほんと!? じゃあ行こ!」
月菜は勢いよく立ち上がり、陽菜の手を引いて教室を出た。
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「うわ……大盛況だね」
タクローのクラスの前には、予想以上の行列ができていた。
『いやいや、あれ普通に怖いって』
『学園祭レベルだと思って油断してた……』
出てきた生徒たちの表情は、どこか引きつっている。
「…………」
「月菜? 顔色、悪くない?」
「ぜ、全然平気だよ!」
声が裏返っている時点で説得力は皆無だった。
本当なら近寄りたくもない。
だが――タクローが中にいると聞いてしまった以上、引き返す選択肢はなかった。
「ほら、もうすぐ順番だよ」
気づけば、受付のすぐ前まで列は進んでいた。
『おっ、タクローの妹さんじゃん。噂どおり可愛いね〜』
受付の男子が、にやにやと声をかけてくる。
「えっ……そ、そんな……」
『ちょっと、同級生の妹をナンパしないの。えっと……二人でいいんだよね?』
隣の女子生徒が、呆れたように制止した。
『いや〜、うちのお化け屋敷、結構本気だからね? 二人で大丈夫?』
「だ、大丈夫……です……?」
「お化けは現実に存在しませんから。問題ないです」
明らかに怯えている月菜とは対照的に、陽菜は冷静だった。
『まぁ、途中でリタイアしてもいいから。あ、タクローも中にいるし、会えたらよろしく』
『走ると危ないから、絶対走らないでねー』
二人は見送られながら、暗い教室の中へ足を踏み入れた。
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「陽菜ぁ、絶対に先行かないでね……」
「分かってるから、少し離れて。歩きづらい……」
入って早々、月菜は陽菜にしがみついて離れなかった。
「なんでそんなに怖いの苦手なのに、入ろうと思ったの?」
「だって……お兄ちゃんが脅かし役するって言ったから……
行くに決まってるでしょ……」
「……本当にお兄ちゃん大好きだね」
「当たり前で――」
その時。
「う〜ら〜め〜し〜や〜……」
「――――っ!!!!」
死装束に三角巾。
ショージが死角からぬっと現れた。
「で、で、でたぁぁぁ!!」
「落ち着いて。多分、平良先輩だから」
ショージはニヤリと笑い、再び闇に消えた。
「……本当?」
「本当」
「……」
少しだけ安心した、その直後。
「早く病室に戻りましょ〜……」
「ぎゃああああっ!!!」
血まみれナース姿のミアが現れる。
「……今のは古木先輩」
「ほ、ほんと!? ほんとだよね!?」
「だから離して。腕が取れる……」
「む、無理……足に力入らない……」
月菜は生まれたての子鹿のように震えていた。
「ほら、もう出口だよ」
「はぁ……助かった……」
そう思った瞬間――
「っ!!?」
月菜の足首が、闇の中から掴まれた。
――タクローだった。
「あ、タクローさ――」
「!?◎◇◆※▲☆○!!」
「ひでぶっ!!」
次の瞬間、月菜の無差別踏みつけが炸裂する。
「月菜っ!? それタクローさん!!」
陽菜が必死に止めるも、完全にパニック状態の月菜は止まらない。
こうして、文化祭の喧騒の裏で。
タクローは妹に踏みつけられ続けるという、悲惨な目に遭うのであった。




