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妹は魔法少女になりましたか?  作者: 吉本優
6月

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第16話 文化祭準備中⑦





―――――





 文化祭準備期間も終盤。

 俺のクラスは、現在進行形で修羅場だった。


『ちょっと待て、これ誰が運ぶんだよ!』


『そっち支えろって! 血糊こぼれる!』


『ショージ! そんな危ない物を飾るな!』


 悲鳴と怒号と笑い声が入り混じる教室。

 机はすべて壁際に寄せられ、中央には段ボールと暗幕、ベニヤ板で組まれた迷路状の通路が出来上がってきていた。


「はぁ……」


 俺は壁際で、深いため息をついた。


「なあタクロー、文句言う前にこれ着ろって」


 そう言って、無遠慮に押し付けられたのは――


「……なんだこれ」


 黒ずんだ着物。

 胸元は破れ、裾はズタズタ。ところどころに赤黒い染み。


「怨霊役。お前、顔が薄気味悪いから丁度いいだろ?」


「褒めてねぇだろそれ」


 ショージはケラケラ笑いながら、自分の衣装を広げていた。

 白装束に、頭からすっぽり被る三角巾。完全にテンプレ幽霊だ。


「俺は王道でいくからな。『うらめしや〜』担当」


「担当とかあるのかよ……」


「あるある。役割分担大事」


 そう言いながら、ショージは楽しそうに三角巾を頭に乗せる。


「で、ミアは?」


 そう聞いて振り返った瞬間――


「……」


 思わず、言葉を失った。


 ミアは、血まみれのナース服を着せられていた。

 白衣は裂け、包帯は無造作に巻かれ、首元から覗く素肌には赤いペイント。


 そして何より――


「……何で俺たちは和装なのにミアはナース服なんだ?」


「お化け屋敷に国境などない!」


「そんなことよりもこのナース服、スカートの丈短くない?」


 ミアの言う通り、一般で言うところのナース服よりもだいぶスカートの丈が短かった。


「ミア、それがナース服なんだよ。男の夢なんだよ!!」


 ショージの言葉に男性陣は皆うんうんと頷く。


『ま、まぁ、古木さん、細身でスタイル抜群だしね。ここで無言で立ってて』


 クラス委員が配置図を指し示す。


「通路の角。客が来たら、ゆっくり振り向くだけでいいから」


「え、それだけでいいの?」


『叫ばない方が怖いタイプお化けだから』


 即答だった。


「……確かに」


 ショージが真顔で頷く。


「ミアは美人ナースのお化け役だな」


「何よ、その役」


 納得したのかしてないのか分からない返事。


「で、タクロー」


 ショージが俺を見る。


「お前はこの通路の奥な。暗いところから出てきて、客の足元掴め」


「足元!?」


「安心しろ、掴むフリでいい」


「いやいや、相手が女性だったら色々と不味いんだよ……」


 文句を言いながらも、俺は着物に袖を通す。


 鏡に映った自分を見て、少し眉をひそめた。


「……我ながら、ろくでもないな」


 薄暗い照明、血糊、ボロ布。

 普段の自分とは別人みたいだ。


「いいじゃん、似合ってるぞ」


 ショージが肩を叩く。


「文化祭だし、楽しまなきゃ損だって」


「お前は完全に楽しんでる側だろ」


「当たり前」


 その時。


 教室の照明が一部落とされ、赤い間接灯だけが点いた。


「テスト点灯行くよー!」


 瞬間、空気が変わる。


 暗闇。

 赤い光。

 軋む床の音。


 ミアが、指示された位置に立つ。


 ――じっと、動かない。


 ショージは通路の向こうで、妙にノリノリで腕を上げている。


「……なあ」


 俺は小声で呟いた。


「これ、本当に学園祭だよな?」


「何言ってんだよ」


 ショージの声が暗闇から返る。


「最高だろ?」


 ……まぁ、そうだろな。


 暗闇の中で、衣装の袖を握り直した。


 赤い光の中、

 お化け屋敷は、静かに完成へ近づいていた。



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