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妹は魔法少女になりましたか?  作者: 吉本優


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7話:シスコンとブラコン




―――――




「ーーーーあっ」


 2人と別れた月菜は自分が鍵を持たずに家を出てしまった事に気がついた。


 時刻は真夜中になっており、母も琢郎も寝ている時間と思われる。


「ど、どうしょう…これじゃ家の中に入れないよ……」



 困った月菜は玄関に立ち尽くしていると、ふぃに玄関の明かりが点いた。


「月菜。遅かったな。何してたんだ?」


「えっ!? あ、あの、急な友達の相談に乗っていたら……!」


「こんな時間までか?」


 時刻はとっくに真夜中になっており、明らかに怪しい事である事は明白である。


「……まあいいや。風呂は入ったか?」


「えーと、まだ入ってないかな」


 先程の戦いで汗もかいていて、すぐにでも風呂に入りたい。そして、自分が汗臭くないか心配している。


「一応、風呂は溜めてあるからゆっくり入ってこいよ。暖かくなってきたけど、しっかり温まらないとかぜひくぞ。後、小腹は空いてないか?」


「…少しお腹すいちゃったかも」


「月菜が風呂に入っている時になんか作っておくからな。母さんには月菜が体調が悪いから部屋に篭っているって事にしているから、ちゃんと口を合わせておけよ」


 琢郎はそう言うと台所に向かった。



―――――




「やっぱり、お兄ちゃんは優しいなぁ……」


 体を洗い終え、月菜は湯船に浸かりながらポツリと言った。


 月菜の事を心配している様子ではあるが、あまり詮索せず、こんな時間まで起きていてくれた琢郎に感謝していた。


「やっぱりお兄ちゃんは学校でもモテてたりしているのかなぁ?」


 特別イケメンっという訳ではないが、顔立ちは整っており、背丈も平均ぐらいと容姿に悪いところは無い。

 しかし、内面は同世代の男子に比べて大人びており、料理、洗濯などの家事は勿論のこと手先も器用なので裁縫、日曜大工も得意なのである。


 実際に月菜の同級生から『月菜ちゃんのお兄さん紹介してよ〜』と言われた事は何度もあるのだ。


「……絶対に紹介しないもん、だって、お兄ちゃんは私のお兄ちゃんなんだもん」


 琢郎は周りからシスコンと揶揄されているが、月菜もブラコンなのである。




―――――




 月菜は湯上がりのほかほかの体をタオルで拭きながら、鏡に映る自分に小さく微笑んだ。

 汗だくで戦ってきた後とは思えないほど、すっきりした顔。鏡の中の自分を見ながら、月菜はどこか誇らしい気持ちになった。


(戦いは大変だけど、私にしかできないことだもんね。町の人やお兄ちゃんの為にも頑張らないと!)


 そう思うと自然と力が湧いてくる。彼女はタオルを軽やかに肩にかけ、リビングへ向かった。


「お兄ちゃん、今上がったよー!」


 リビングに戻ると、琢郎が台所から顔を出した。


「ああ、いい湯加減だったか?」


「うん! すっごく気持ちよかった!」


 月菜が満面の笑みを見せると、琢郎も自然と笑みを返す。


「ほら、夜食ができたぞ。腹が空いてたんだろ?」


 テーブルにはお茶漬けと小ぶりな卵焼きが並べられていた。


「わぁ、美味しそう! ありがとう、お兄ちゃん!」


 月菜は椅子に腰掛けると、さっそく箸を手に取った。お茶漬けを一口すくって口に運ぶと、優しい味がじんわりと体に染み渡る。


「これ、お兄ちゃんが作ったの?」


「当たり前だろ。誰もいない家で自分で作らなきゃ食えないだろうが」


「そうだけど、ほんとすごいよね、お兄ちゃん。何でもできちゃうんだから!」


「お前が褒めても何も出ないぞ。ほら、冷めないうちに食え」


 琢郎の照れ隠しのようなそっけない言葉に、月菜はくすくす笑いながら頷いた。




―――――




 食事を終えた月菜は満足そうに背伸びをした。


「お兄ちゃん、本当にごちそうさま! 私、こんなに美味しい夜食初めてかも!」


「大げさだな。でも、お前が喜ぶなら作った甲斐があったよ」


「ふふ、これからもお願いしちゃおうかなー?」


「はいはい、いいから早く寝ろよ。明日も学校だぞ」


「はーい!」


 月菜は元気よく返事をすると、自分の部屋に戻った。





―――――





 ベッドに横たわった月菜は、今日の出来事を思い返していた。


「今日も何とかニブラを倒せたなぁ」


 戦いの疲労はあったものの、こうして家に帰ってお兄ちゃんの優しさに触れると、それも吹き飛ぶようだった。


「お兄ちゃん、いつもありがとう……私も、もっと頑張るね」


 月菜は月の模様が彫られているペンダントにそっと触れると、小さく微笑んだ。そして、そのまま暖かい気持ちに包まれて眠りについた。




―――――




 一方その頃、リビングでは琢郎が食器を洗いながらぼんやりと考えていた。


「月菜、こんな真夜中まで魔法少女してるなんてな……」


 口には出さないが、妹のことを気にかけている兄の姿がそこにはあった。


「中々ブラックな職場なんだな。労働組合とかあるのか?」


 琢郎は肩を軽く回して、疲れた体を伸ばした。


「さて、俺もそろそろ寝るかな」


 そう言って部屋に戻る琢郎。その表情は、どこか晴れやかだった。



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