第15話 雨が降ってますよ。④
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オカ研の部室は、相変わらず胡散臭い。
埃を被った棚、年代も用途も不明な資料の山。どこから持ち込まれたのか分からない呪符や水晶玉が、所狭しと並べられている。まともな人間なら一歩足を踏み入れた瞬間に眉をひそめ、そのまま回れ右するだろう。
だが放課後になると、俺たちは当たり前のようにここへ集まっていた。
それが日課になっているから恐ろしいな。
「さて、本日の議題であるが……」
ユウゲンが、いかにもそれらしい声色で切り出す。
薄暗い部室の中央、机の前に立ち、わざとらしく咳払いをした。
本日はオカ研の活動日。
狭い部室には、いつもの四人が揃っている。
「ユウゲン、そろそろネタ切れなんじゃないか?」
俺はパイプ椅子に背中を預け、腕を組んだ。
きし、と古い金属が嫌な音を立てる。
「最近、特におかしな現象は起きてないぞ」
ユウゲンは鼻で笑った。
「部活中は部長と呼べと言っているだろう、タクロー。それはお前の視野が狭いから、何も起きていないように見えるのだ」
「はいはい。便利な言葉だな、それ」
「そうだぞタクロー」
横から、軽薄な声が割って入る。
「最近だって、女子バレー部の更衣室に盗撮カメラが仕掛けられてたって話、出回ってるんだぞ?」
「それ、あんたが犯人じゃないの?」
即座に冷えたミアのツッコミが飛ぶ。
「失礼な!! 俺ならちゃんと合意のうえでやっているぞ!!」
「絶対に合意は得られないと思うがな」
いつものやり取り。
この空気だけを切り取れば、どう見てもただのバカな部活動だ。
だが――。
「そういう下世話な案件は警察に任せておけばよい」
ユウゲンが空気を切り替えるように言い放ち、ホワイトボードの前に立つ。
軽口がぴたりと止まり、部室に静寂が落ちた。
「我らが追うのは摩訶不思議な現象。まさにそれが、昨日起きたというのだ」
キィ、とペンの音が妙に大きく響く。
白い板に、簡潔な文字が書き連ねられていった。
【市街地・暴動未満の騒乱】
「どうやら昨日、何者かが市街地で暴れていたらしい」
その一言で、胸の奥がざわついた。
「暴れてたって……ニュースになってないぞ」
「そこが重要なのだ」
ユウゲンは振り返り、指でボードを叩く。
「被害は軽微。通報もほぼ無し。だが、目撃証言は確かに存在する」
「矛盾してないか?」
「しているとも」
ユウゲンは机の上に数枚の写真を並べた。
ひび割れた歩道、削れた壁、歪んだガードレール。
事故にしては、不自然な傷跡。
「争った形跡がある。だが、肝心の相手が誰もはっきり覚えていない」
写真を見下ろした瞬間、背中に薄く寒気が走った。
……人が多い場所で、記憶が曖昧?
「発生地点は?」
「市街地の交差点。人通りの多い場所だ」
その言葉で、別の記憶がよぎる。
少し前、星菜がぽつりと漏らした、あの意味深な一言。
――人が集まる場所って、ニブラが発生しやすいんだよ。
ニブラの事はよく分からん。
でも、わざわざ月菜に言うって事はゲームの事じゃなくて、多分魔法少女関係だろうな。
つまり、佐々木冥夜の妹も魔法少女って事だな。
「紫苑祭も近い」
ユウゲンの声が、思考を引き戻す。
「人が集まる機会が増える。だからこそ、調査する価値がある」
部室の空気が、わずかに重くなる。
ふと、月菜の顔が、自然と浮かんだ。
あいつは無茶するからな。
自覚がない分、余計に危なっかしい。
「なぁ、部長」
気づけば、俺はそう呼んでいた。
「この件、深入りするなら……慎重にやれよ」
ユウゲンが、一瞬だけ目を細める。
「珍しいな。お前がそんな忠告をするとは」
「ただの勘だ」
それ以上は言わなかった。
言えなかった。
部室の窓を、風が叩く。
放課後の校舎は、いつもと変わらないはずなのに――
俺には、何かが水面下で静かに動き始めているように思えてならなかった。




