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妹は魔法少女になりましたか?  作者: 吉本優
6月

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第15話 雨が降ってますよ。④






―――――





 オカ研の部室は、相変わらず胡散臭い。


 埃を被った棚、年代も用途も不明な資料の山。どこから持ち込まれたのか分からない呪符や水晶玉が、所狭しと並べられている。まともな人間なら一歩足を踏み入れた瞬間に眉をひそめ、そのまま回れ右するだろう。


 だが放課後になると、俺たちは当たり前のようにここへ集まっていた。


 それが日課になっているから恐ろしいな。


「さて、本日の議題であるが……」


 ユウゲンが、いかにもそれらしい声色で切り出す。

 薄暗い部室の中央、机の前に立ち、わざとらしく咳払いをした。


 本日はオカ研の活動日。

 狭い部室には、いつもの四人が揃っている。


「ユウゲン、そろそろネタ切れなんじゃないか?」


 俺はパイプ椅子に背中を預け、腕を組んだ。

 きし、と古い金属が嫌な音を立てる。


「最近、特におかしな現象は起きてないぞ」


 ユウゲンは鼻で笑った。


「部活中は部長と呼べと言っているだろう、タクロー。それはお前の視野が狭いから、何も起きていないように見えるのだ」


「はいはい。便利な言葉だな、それ」


「そうだぞタクロー」


 横から、軽薄な声が割って入る。


「最近だって、女子バレー部の更衣室に盗撮カメラが仕掛けられてたって話、出回ってるんだぞ?」


「それ、あんたが犯人じゃないの?」


 即座に冷えたミアのツッコミが飛ぶ。


「失礼な!! 俺ならちゃんと合意のうえでやっているぞ!!」


「絶対に合意は得られないと思うがな」


 いつものやり取り。

 この空気だけを切り取れば、どう見てもただのバカな部活動だ。


 だが――。


「そういう下世話な案件は警察に任せておけばよい」


 ユウゲンが空気を切り替えるように言い放ち、ホワイトボードの前に立つ。

 軽口がぴたりと止まり、部室に静寂が落ちた。


「我らが追うのは摩訶不思議な現象。まさにそれが、昨日起きたというのだ」


 キィ、とペンの音が妙に大きく響く。

 白い板に、簡潔な文字が書き連ねられていった。


【市街地・暴動未満の騒乱】


「どうやら昨日、何者かが市街地で暴れていたらしい」


 その一言で、胸の奥がざわついた。


「暴れてたって……ニュースになってないぞ」


「そこが重要なのだ」


 ユウゲンは振り返り、指でボードを叩く。


「被害は軽微。通報もほぼ無し。だが、目撃証言は確かに存在する」


「矛盾してないか?」


「しているとも」


 ユウゲンは机の上に数枚の写真を並べた。

 ひび割れた歩道、削れた壁、歪んだガードレール。


 事故にしては、不自然な傷跡。


「争った形跡がある。だが、肝心の相手が誰もはっきり覚えていない」


 写真を見下ろした瞬間、背中に薄く寒気が走った。


 ……人が多い場所で、記憶が曖昧?


「発生地点は?」


「市街地の交差点。人通りの多い場所だ」


 その言葉で、別の記憶がよぎる。

 少し前、星菜がぽつりと漏らした、あの意味深な一言。


 ――人が集まる場所って、ニブラが発生しやすいんだよ。


 ニブラの事はよく分からん。

 でも、わざわざ月菜に言うって事はゲームの事じゃなくて、多分魔法少女関係だろうな。


 つまり、佐々木冥夜の妹も魔法少女って事だな。


「紫苑祭も近い」


 ユウゲンの声が、思考を引き戻す。


「人が集まる機会が増える。だからこそ、調査する価値がある」


 部室の空気が、わずかに重くなる。


 ふと、月菜の顔が、自然と浮かんだ。

 あいつは無茶するからな。

 自覚がない分、余計に危なっかしい。


「なぁ、部長」


 気づけば、俺はそう呼んでいた。


「この件、深入りするなら……慎重にやれよ」


 ユウゲンが、一瞬だけ目を細める。


「珍しいな。お前がそんな忠告をするとは」


「ただの勘だ」


 それ以上は言わなかった。

 言えなかった。


 部室の窓を、風が叩く。

 放課後の校舎は、いつもと変わらないはずなのに――


 俺には、何かが水面下で静かに動き始めているように思えてならなかった。




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