第14話 市街地にて月、太陽、そして地球。②
「えーーっ!! な、なんで星菜ちゃんがここにいるの!!?」
「月菜、うるさい」
まだ驚きが収まらない月菜を、陽菜がぴしゃりと制した。
「あははっ、月菜ちゃん。ナイスなリアクション!」
「……何故、今このタイミングで正体を明かしたのですか?」
臨戦態勢を崩さぬまま、エヴァは星菜へと問いかける。
「うーん。別に、もう隠さなくてもいいかなって思ってね」
星菜は軽く肩をすくめると、ちらりと陽菜に視線を向けた。
「それに、正体に気づきそうな人たちも出てきたみたいだし。だったら、みんながびっくりしてる今のうちに――って思ったわけ!」
にっと笑って続ける。
「どう? 驚いた?」
「別に……」
「びっくりしすぎて、心臓が飛び出そうだったよ……!」
「……佐々木星菜。貴女の目的は何ですか?」
陽菜の声は、冷静だが鋭かった。
「だから、星菜って呼んでってば!」
その緊張感とは対照的に、星菜は無邪気な笑顔を浮かべる。
「まぁ、詳しいことは内緒。でもさ、別に悪いことを考えてるわけじゃないよ?」
「……」
「人に危害を加える気もないし。そうだねぇ……いわゆる正義の味方ってやつ?」
「ふざけないで!」
陽菜は一気に踏み込み、星菜へと剣を振り下ろした。
「ふざけてないってば。至って真面目だよ」
星菜は慌てる様子もなく、ハンマーで陽菜の剣を受け止める。
――ガキンッ!!
「ちょ、陽菜っ!! 同級生に剣を振るっちゃダメだよ!」
「大丈夫。無力化するだけだから」
「そんなに怒らなくてもさ。黒の下着を履いてるって知られたから?」
「……うるさい!!」
「あたしのイメージだと、白とか履いてそうだったんだけどなぁ。ちなみに月菜ちゃんはピンクのイメージ!」
「えっ!? な、なんで分かるの!?」
月菜は思わずスカートを押さえた。
「ありゃ。……ビンゴだった?」
その瞬間――
「……そこまでです」
エヴァの声が、低く響いた。
三人の間に、魔力の圧が走る。
「市街地です。これ以上の私闘は、看過できません」
「エヴァさん……」
月菜が不安そうに声を漏らす。
「星菜さん。貴女が敵意を持っていないという主張――理解はしました」
エヴァはカードを構えたまま、一歩前へ出る。
「ですが、《テラ・コア》の共鳴者である以上、その力は看過できない」
「ふーん……。やっぱり、そこ来るよね」
星菜はハンマーを肩に担ぎ、少しだけ真剣な表情になった。
「ねぇ、月菜ちゃん。陽菜ちゃん」
二人に向けて、視線を向ける。
「あたしはさ――ニブラを倒す理由が、ちょっと違うだけ」
「違う……?」
「そう。だから、協力はできないけど……敵でもないよ」
その言葉に、陽菜が眉をひそめる。
「……意味が分からない」
「はは、陽菜ちゃんは頭が堅いなぁ」
星菜は苦笑しつつ、一歩後ろへ下がった。
「でもさ。今日ここで戦う気は、あたしにはないよ」
ふっと地面を叩き、軽く跳躍する。
「じゃ、また明日学校でね!」
「ちょ、待って!」
月菜が手を伸ばすが――
「――明日学校で会うときは、いつも通り話そうね♪」
その言葉を残し、星菜の姿は土煙と共に消えた。
残された三人の前に、静寂が戻る。
「……行っちゃった」
「ええ」
エヴァはカードを下ろし、小さく息を吐いた。
陽菜は、剣を収めながら呟く。
「……厄介な相手だ」
月菜は、星菜が消えた方角を見つめながら――
「でも……星菜ちゃん、悪い人じゃなさそうだよ」
そう、小さく呟いた。
―――――
「あー、月菜ちゃんのリアクション。最高に面白かったなぁ」
帰路につきながら、星菜は月菜の表情を思い出し、思わず笑みをこぼした。
「でもさぁ……あのエヴァっていうお姉さん。ちょっと厄介そうだよね」
戦闘中も、彼女は終始、星菜の一挙一動を観察していた。
月菜と陽菜。
そこにエヴァが加わっていれば、星菜の身柄を押さえることは容易だったはずだ。
――それでも、エヴァはそうしなかった。
「何か、お姉さんなりの考えがあったのかなぁ……」
そんなことを考えながら家の前に辿り着いた、そのとき――
「星菜、こんな遅くに何をしていたんだい?」
「……お兄ちゃん」
そこに立っていたのは、佐々木冥夜だった。
「お兄ちゃんには関係ないよ。思春期の女の子には、色々事情があるの!」
「事情があっても、深夜に中等部生が外出するのは看過できないかな?」
「うっ……」
正論だった。
「うるさいなぁ。お兄ちゃんだって、この時間に外に出ることあるでしょ! ほっといて!!」
星菜は冥夜の横をすり抜け、そのまま家の中へと入っていった。
「……ふぅ。これが反抗期ってやつかな」
冥夜は苦笑しながら、夜空に浮かぶ星を見上げた。




