第14話 市街地にて月、太陽、そして地球。
「――既に、仮面の子とニブラが交戦しているわ」
陽菜は周囲を一瞥し、冷静に状況を把握していた。
「うぅ……人に見られてないって思ってても、やっぱり恥ずかしいよぉ……」
三人はすでに魔装姿へと変身を終えている。
これまでの戦場は人気のない場所ばかりだったが、今回は違う。
行き交う人々がいる、市街地のど真ん中だ。
姿を魔術で隠しているとはいえ、事情を知らない者からすれば――
謎のコスプレ集団が突然現れたようにしか見えないだろう。
「月菜ちゃん、恥ずかしがっている場合ではありませんよ」
「……仮面の子っ!」
月菜は、ニブラと対峙している仮面の少女へと視線を向けた。
「来なくてもよかったのに。この辺りのニブラなんて、あたし一人で全部片づけられるのにさ」
「それも一つの判断ではあります。
ですが――貴女の素性が分からない以上、すべてをお任せするわけにはいきません」
エヴァは静かにカードを構える。
「ふーん……。お姉さん、初めて見るけど……相当やるね」
仮面の少女は、警戒するように一歩身構えた。
「ふふ。そう言われると、少し嬉しいですね。普段はあまり評価されませんので」
「それはエヴァが、普段うっかりしすぎなだけ」
「こほん……!」
わざとらしく咳払いをしてから、エヴァは指示を出す。
「私が仮面の子を拘束します。月菜さんと陽菜ちゃんは、ニブラの殲滅を」
「了解。月菜、私は近接戦闘専門だから……人を巻き込む可能性がある。援護、お願い」
「うん、分かった!」
月菜は深く息を吸い、周囲へと魔力を収束させていく。
「……よく狙って――《ムーン・ショット》!!」
幾筋もの月光の弾丸が放たれ、
人々の隙間を縫うようにしてニブラへと正確に突き刺さった。
直撃を受けたニブラが、甲高い悲鳴を上げて後退する。
「……っ、さすが。人の間を掻い潜って攻撃する精度……大したものだね」
仮面の少女がそう呟いた瞬間――
「よそ見は感心しませんよ」
エヴァのカードが宙を舞い、光の魔法陣が瞬時に展開される。
「《ルーン・バインド》!」
幾重にも重なる拘束の紋章が、仮面の少女の動きを封じた。
「ちっ……! 拘束系が高水準とか、反則でしょ……!」
「安心してください。命までは取りません」
一方、その頃。
「――はぁぁっ!!」
陽菜が剣を振るうと、太陽のような熱量を帯びた斬撃が迸る。
「《サンレイ・クレセント》!」
弧を描く灼熱の斬撃が、ニブラの群れをまとめて薙ぎ払った。
「月菜、次!」
「うん!」
月菜はペンダントに手を当て、さらに魔力を高める。
胸元で、淡い月光が脈打つように輝いた。
「……まだ、いける」
魔力が指先へと集中していくのが、はっきりと分かる。
それは、先ほどの《ムーン・ショット》とは質の違う、研ぎ澄まされた感覚だった。
「陽菜、少しだけ前に出て!」
「了解!」
陽菜は即座に意図を察し、ニブラの注意を引くように踏み込む。
「――《サン・フレア》!」
剣先から放たれた強烈な炎が、ニブラたちの視界を奪った。
「――今だよ!」
月菜は、その隙を逃さなかった。
「《ムーン・ショット》……連射っ!!」
魔力の弾丸が無数に放たれる。
光は人々の間を正確にすり抜け、逃げ場を失ったニブラの急所を次々と撃ち抜いていった。
甲高い断末魔とともに、ニブラの身体が霧散していく。
「……連携、完璧だね」
拘束されたままの仮面の少女が、感心したように息を吐いた。
「感想を述べる余裕があるとは、さすがですね」
エヴァは拘束を維持したまま、視線を外さない。
「あたしも、ずっと拘束される趣味はないからさ。そろそろ、脱出しようかな」
仮面の少女は魔力を解放し、エヴァの拘束魔術を強引に打ち破った。
「っ……! やはり、一筋縄ではいきませんね」
「当たり前でしょ。あたしは《テラ・コア》と共鳴した――だから、強い!」
仮面の少女は、ハンマーへと魔力を込めていく。
「行くよ。超震動――《テラ・インパクト》!!」
ハンマーが地面に叩きつけられた瞬間――
――――ドンッ!!
「うわぁっ、地震!?」
「くっ……動けない……!」
突如発生した激しい揺れに、月菜と陽菜は倒れまいと足を踏ん張る。
ニブラたちも、予期せぬ地震に動きを止めていた。
「もらいっ!」
その隙を突き、仮面の少女はニブラを次々と粉砕していく。
「ふぅ……。また、あたしの勝ちだね」
「ニブラ討伐に、勝ち負けはない……。
……ま《・》た《・》?」
陽菜の視線が、鋭く仮面の少女を捉える。
「ふふ。今日の勝負に二回負けちゃった、黒の下着を履いている陽菜ちゃんに――大サービス」
「なっ!?」
仮面の少女は、ゆっくりと自らの仮面を外した。
「……やっぱり。予想通り」
「えっ? えっ、えっ!? なに、なんで!?」
驚きを隠せない月菜とは対照的に、陽菜は冷静な表情で告げる。
「佐々木星菜。貴女が――《テラ・コア》の共鳴者」
「正解!」
明るく笑ってみせた少女は、胸を張る。
「みーんなから中等部のアイドルって呼ばれてる、あたし――佐々木星菜が、仮面の少女の正体だよ!」
仮面の下から現れたその顔には、
薄く、意味深な笑みが浮かんでいた。




