第13話 疑心と暗鬼⑥
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「……お兄ちゃん、行ってくるね」
今夜もまた、月菜はニブラを退治するため、夜の外へ向かおうとしていた。
「さてと……魔力を使って……」
訓練に訓練を重ねた結果、月菜は日常的に魔力を扱えるようになっている。
身体能力の強化――それは彼女にとって、今や呼吸と同じくらい自然なものになっていた。
最近では、こっそり玄関から出るよりも、窓から外へ抜け出す方が多い。
タクローや周囲の視線を避け、素早く、誰にも気づかれずに行動する。その方が合理的なのだ。
「気をつけて行ってこいよ」
月菜の部屋の外でタクローは月菜を見送った。
静まり返った家の中で、タクローは小さく息を吐いた。
「……無茶だけは、するなよ」
誰に聞かせるでもない言葉が、夜に溶けていった。
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「本日は、私も出ます」
月菜たちは、いつもの公園に集合していた。
街灯の少ない一角。夜風が、木々の葉をかすかに揺らしている。
「私たちだけでも大丈夫」
「いえ。今日は《テラ・コア》の子が来る可能性が高いです」
エヴァは端末を操作しながら、淡々と続けた。
「それに、あまり目立った行動を取ると……“彼ら”に目をつけられてしまいますので」
「……そう」
陽菜は少し不満そうにしながらも、渋々うなずいた。
「……陽菜は納得してるみたいだけど、私はその“彼ら”っていうのが、いまだによく分からないんだけど……」
月菜は腕を組み、眉をひそめる。
「まぁまぁ、月菜ちゃん」
エヴァは苦笑いを浮かべ、やんわりと話をはぐらかした。
「これは……知ってしまうと、後戻りできなくなる情報なので。また、いずれの機会に」
「……なんか納得いかないよぉ」
月菜が小さく頬を膨らませる。
「気を取り直して」
エヴァは話を切り替えた。
「現在、ニブラが出現しているのは――市街地です」
「えっ……?」
月菜は思わず声を上げる。
「今までは、人のいない場所ばっかりだったのに……」
「ニブラは、人の負の感情が具現化した存在です」
エヴァは冷静に説明する。
「今回の反応は弱い。おそらく――生まれたばかりのニブラでしょう」
「じゃあ、早めに倒さないと……」
「はい。ただし」
エヴァの声が、わずかに低くなった。
「人がいる可能性が高いので、戦闘は迅速かつ最小限でお願いします。一応、姿を消す魔術は使用しますが……万全ではありません」
月菜は小さく息を呑み、拳を握る。
「……分かった」
「行こう」
陽菜の声を合図に、三人は一斉に駆け出した。
その瞬間――
遠く、街の方向から。
――ざわり、と。
空気が歪む感覚が、肌を刺した。
「……この感じ」
月菜が足を止める。
「うん。間違いないね」
陽菜も表情を引き締める。
エヴァが静かに告げた。
「――ニブラ、出現確認。ですが……」
一拍置いて。
「今までとは、少し様子が違いますね」
街の灯りの向こうで、
嫌な予感だけが、確かに蠢いていた。
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「はぁ……はぁ……中々に手強いなぁ……」
市街地。
仮面をつけた少女は、複数のニブラに囲まれていた。
「それに……人がいるから、戦いにくい」
ニブラは一般人には見えない。
さらに彼女自身も、姿を消す魔術を使用しているため、戦っている姿が人々の目に映ることはない。
それでも――被害を出さずに戦うのは、簡単ではなかった。
「ギギギ……」
ニブラたちは生まれたばかりで、個々の力は強くない。
だが、人々の間を縫うように動き、一般人の近くを狙ってくる。
攻撃を躊躇えば、隙を突かれる。
だが、強く出れば、人に危険が及ぶ。
「……厄介だなぁ」
仮面の少女は小さく舌打ちした。
「速く倒さないと……また、あの子たちが来るんだけどなぁ……」
「いた!! ニブラっ!!」
「それに……仮面の子も……」
その声を聞いた瞬間、少女は肩をすくめた。
「あー……ややこしくなっちゃうなぁ……」
ため息混じりに呟き、仮面の少女は月菜たちの方へと視線を向けた。




