第13話 疑心と暗鬼⑤
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放課後。
日本文化研究同好会の部室には、いつもの三人が揃っていた。
「……それで、急に集合ってどうかしましたか?」
エヴァが椅子に腰掛けながら、少しだけ不安そうに尋ねる。
「体育のときから、陽菜様子おかしかったよね」
月菜はは湯呑みにお茶を啜りながら、静かに視線を向けてきた。
「……単刀直入に言う」
陽菜は一度息を整え、二人を見た。
「佐々木星菜は、ただの生徒じゃない」
「え?」
月菜が目を瞬かせる。
「ただの生徒じゃないって……中等部のアイドルだし、足が速いからただの生徒じゃないと思うけど」
「それもある。でも、それだけじゃない」
陽菜は今日のリレーの光景を思い出す。
「最後の直線。あの加速は、人間の身体能力の範疇じゃない……それなのに、魔力反応が一切なかった」
「魔力、ゼロ……?」
月菜の声が少し小さくなる。
「確かにそれは、かなり異常ですね」
エヴァが頷いた。
「魔力を使えば、どれだけ隠しても魔力の残滓は残ります。完全に無反応というのは……」
「逆に言えば、魔力を使っていない」
陽菜が言葉を継ぐ。
「身体そのものが、最初からそういう造りの可能性がある」
部室に、わずかな沈黙が落ちた。
「……じゃあ、星菜ちゃんって何者なの?」
月菜は困ったように尋ねた。
「分からない。私は仮面の少女の正体が佐々木星菜だと確信しているけど、確証はない。でも、魔術の関係者か……あるいは……」
「陽菜ちゃん、ストップ。その先の方々についてはまだ月菜さんには教えてはいけません」
エヴァは静かに首を振った。
「私と話したとき、あの子は――」
陽菜は、準備運動中の会話を思い返す。
『ここ、今学校だもん』
あの言葉。
「……学校では何もしないって、言い方だった」
「それって……」
月菜の表情が、少しだけ強張る。
「はい。場をわきまえている者の言葉ですね」
エヴァは真剣な顔で続けた。
「つまり……」
「何か正体を隠しているってことです」
陽菜は小さく拳を握る。
「……それに、賭けの時」
「賭け?」
月菜が反応する。
「い、いや……」
少し言い淀んだあと、陽菜は諦めたように続けた。
「佐々木星菜と、アンカー勝負で賭けをした。負けたら……私の今日の下着の色を言うって」
「えっ!?」
「……」
エヴァは何も言わず、ただ一度だけ頷いた。
「で、負けた」
「ちょ、ちょっと待って!? それで黒って言ったの!?」
「……そこは重要じゃない」
陽菜は珍しく顔を赤くしながらも、真剣さを崩さない。
「問題は、その後」
「その後?」
「佐々木星菜は、私が何を考えて賭けに乗ったかを、最初から分かっていた」
最初から。
疑われていることも。
探られていることも。
「……遊んでいるようで、全部把握している」
「それは……確かに、普通じゃないですね」
エヴァは腕を組み、少し考え込む。
「佐々木星菜ーーいや、まさか……」
「どうしたの?」
「いえ、何でもありません」
「じゃあ……星菜ちゃんは敵なの?」
月菜が不安そうに聞く。
「分からない」
陽菜は即答した。
「敵かどうかはまだ判断できない。でも――」
一瞬、陽菜の目に強い光が宿る。
「こっちの関係者である事に間違いはない」
部室の空気が、ぴんと張り詰めた。
「……だから、気をつけて」
陽菜は月菜をまっすぐ見る。
「佐々木星菜には、あまり関わらない方がいい」
「……うん」
月菜は小さく頷いた。
「ふふ」
その時、エヴァが微笑む。
「どうやら、放課後も平穏では済まなそうですね」
「エヴァ……?」
「でも、大丈夫です」
碧い瞳が、二人を映す。
「真実は、必ず近づいてきます。……星菜さんの方から、ね」
その言葉は、どこか確信に満ちていた。
――――――
「ふーん、やっぱり警戒度を上げてくるのかぁ……本気出しすぎちゃったかな?」
日文研の部室前に佇む人物がいる。
薄ら笑いをしながら話を聞いていた。
「ん? そこで何してんの?」
そこに姿を現したのはタクローであった。
「あ、京田先輩ですね。この間はどうも」
「なんか笑いながら日文研の部室前で笑っているのは流石に怖いと思うぞ」
「いえいえ、用があったのですがどうやら話が盛り上がっているみたいでで直そうかと思いまして」
「別に入っても大丈夫だとは思うけどな」
「それでは失礼します」
少女はお辞儀をしその場から離れて行った。
「あぁ、冥夜によろしく言っといてくれ、星菜ちゃん」




