6話:魔法少女はブラックな職場である。
「月菜、遅い」
いつも通りのいつものセリフの陽菜。
「ごめんね。って、今日はエヴァさんも一緒なんだね」
「ふふっ、貴女たちがしっかり働いてくれているのか、しっかり見とかないといけないですからね」
陽菜の隣には琢郎のクラスに転入して来て、日中共に昼食を食べた田中由里子の姿があった。
お気づきの方もあるが、彼女こそ月菜、陽菜の上司にあたる魔法少女。
本名、エヴァンジェ・ソトである。
勿論、日本人ではなく純粋な北欧人である。
「びっくりしましたよ。まさかお兄ちゃんのクラスに転入してくるなんて。しかも、名前を日本人名だなんて」
「私クラスになれば学校に潜入するなんて容易い事ですよ」
本人は自信満々であるのだが、彼女の事を日本人である事を信じているクラスメイトはいないのである。
とりあえず、可愛いからどうでもいいやって感じである。
「……エヴァ、普通金髪で碧眼の日本人はこの世に存在しない」
「それは何かの間違いですよ! ほら、この本に書かれている日本人も金髪碧眼で描写されていますよ!」
エヴァが見せて来た本は漫画である。
「あー、エヴァさん? これはあくまでフィクションで描かれているだけで、ハーフではない限りはこんな日本人はいませんよ?」
「そんな……どおりで金髪の人が少ないと思いました……」
エヴァはがっくりしていた。
因みにエヴァが言う金髪の人も地毛ではなく染めている人たちである。
「そんな事より、姿を現したよ」
月菜たちの目の前に黒い影が現れた。
「出たわね。ニブラ!」
黒い影の名はニブラ。
説明するとややこしいのであるが、簡潔にまとめると反転した光の精霊の存在がニブラと呼ばれている。
ニブラは世界を混沌に陥れる存在となっている為、月菜たち魔法少女が日夜退治して回っているのだ。
「じゃ、私は手を出しませんのでお二人であのニブラを退治してみてくださいね」
「はい!」
「分かった」
「「シャイニーパワー・オン!」」
月菜と陽菜がペンダントを空にかざすと、眩い光が周囲を包み込んだ。光が収まると同時に、二人の服は魔法少女の衣装へと変わった。
「陽菜、準備はいい?」
「もちろん。あとは貴女のタイミング次第」
二人はそれぞれの武器を構え、黒い影――ニブラを見据えた。陽菜の剣は太陽の光を宿し、燃え上がるようなオーラを放っている。一方、月菜の杖は淡い月光の輝きをまとい、静かだが確かな力を感じさせる。
「こいつ、まだ大技を溜めてる。タイミングを合わせて一気に仕留めるぞ!」
「分かってる!」
陽菜が剣を振りかざし、赤く輝く太陽のエネルギーを凝縮し始めた。
「サンバースト・スラッシュ!」
陽菜の剣から放たれた灼熱の斬撃が、ニブラの触手を一気に焼き払う。その爆発的な熱量に、周囲の空気が一瞬で歪む。
「ナイスだよ陽菜ちゃん! でも、まだ終わらない!」
月菜はその隙を突き、杖を高く掲げた。
「ルナライト・スフィア!」
月菜の杖から放たれた柔らかな月光が球体となり、ニブラの体を包み込むように照らす。その光は一見穏やかだが、ニブラの動きを封じ込める強力な力を秘めていた。
「動きを止めたわね……これで決める!」
二人は互いに目配せをし、同時に必殺技の準備に入る。
「私が太陽で焼き尽くす!」
「私は月光で浄化する!」
陽菜が剣を再び振りかざし、金色の光を収束させる。そして、月菜は杖を前に突き出し、青白い輝きを最大限に高めた。
「ソーラ・フレア!」
「ムーン・ブレッシング!」
太陽の熱量と月の癒しの力が一つになり、巨大な光の奔流がニブラに向かって解き放たれた。それは昼と夜が交差するような壮大なエネルギーであり、ニブラはその攻撃を受けると、苦悶の叫びを上げながら消滅していく。
―――――
「ふう……これで終わったかな?」
「いや、終わった。月菜」
陽菜が剣を肩に担ぎながら話す。その言葉に月菜も笑顔を返した。
「ありがとう、陽菜ちゃん。やっぱり二人で協力すると強いね」
「当然だ。……まあ、月菜は合わせるタイミングが少し遅かったけど」
「ええ!? 十分頑張ったよ!」
陽菜が剣を収め、月菜も杖を降ろして肩の力を抜く。その様子を少し離れたところで見ていたエヴァは、満足げに拍手を送った。
「お見事です! 二人とも素晴らしい連携でしたよ」
「エヴァさん、見てるだけじゃなくて少しは手伝ってくれても……」
「まあまあ、私が出るまでもなかったということですよ。おかげで貴女たちの実力も確認できましたしね!」
エヴァが笑顔で答えるが、二人は少し呆れたような表情を浮かべる。
「でもまあ、これで街の平和は守られたんだし、よかったんじゃないかな?」
月菜がそう言うと、陽菜も小さくうなずいた。
「……次もこううまくいくとは限らない。もっと精進しないと」
「そうだね。でも、二人で力を合わせれば、きっと乗り越えられるよ!」
二人の言葉にエヴァは満足そうに頷き、三人は夜の街を歩き出した。月明かりが照らす静かな道を、次の戦いに備えるように心を落ち着けながら進んでいく――。




