第13話 疑心と暗鬼
「おーい、起きてるかー?」
朝食の席。
いつになくうとうとしている月菜に、俺は声をかけた。
「あら、眠たそうね。琢郎、あんた変なことを月菜に教えていないでしょうね?」
珍しく母さんも一緒に朝食を取っている。
朝から失礼なことを言うな。
「うにゃぁ……お兄ちゃんは何もしてないよー。ただ、考え事してたら寝れなくて」
「考え事っ!? まさか、男関係!?」
「何で真っ先に男関係になるんだよ」
「あんた、月菜を見てモテてないと思ってるの?」
「ショージ曰く、学校じゃ“三菜姫”って呼ばれてるらしいぞ。だから多分モテてるとは思う」
「何、その山菜みたいな呼び名は?」
俺に聞くな。
「え……私、みんなからそんなふうに呼ばれてるの?」
どうやら本人非公認らしい。
「うぅ……私、あんまり野菜好きじゃないんだけどなぁ……」
「はいはい。そんなこと言ってたら大きくなれんぞ」
そう言って、サラダのボウルを月菜の前に差し出す。
「そうよ、月菜。私みたいに大きくなれないわよ?」
母さんは自信満々に胸を張る。
確かに、スタイルは文句なしだ。
その血は――まあ、継いでいるとは思う。
「それなら……頑張って食べるよ〜」
月菜は観念したように、サラダを自分の皿へと取り分けた。
「お兄ちゃんは好き嫌いないの?」
「ないな。食べ物と認識できるものなら、だいたい何でも食べる」
つまり、月菜が作った黒炭は別だ。
あれはそもそも食べ物なのか?
「琢郎は元から何でも食べるから、ご飯作るの楽だったわぁ」
ちなみに母さんも料理は得意ではない。
黒炭にはならないが、たまに劇物みたいな料理が食卓に並ぶ。
京田家では、なぜか男が料理担当だ。
とはいえ、父さんは滅多に帰ってこないから、実質俺がほとんど作っているのだが。
「私も、ちゃんとした料理作れるようになりたいなぁ……」
「そのうち出来るようになるさ」
レシピ通り作れば、不味くはならない。
問題は、途中で謎の一手間を加えることだ。
あれが謎の物体を錬成する原因なのだから。
「はいはい。楽しい朝食だけど、そろそろ学校行く時間よ。早く準備しなさい」
「へーい」
「はーい」
久しぶりに家族揃っての朝食だったが、
たまにはこういう賑やかな朝も悪くないな。
―――――
「あの仮面の子……もしかしたら、うちの学校の生徒かもしれない」
場面は変わり、エヴァと陽菜の家。
こちらは打って変わって静かな朝食風景だ。
「……その根拠は何ですか?」
食事をしていたエヴァの箸が止まる。
「分からない。でも、私の勘だと佐々木星菜が一番怪しい」
「佐々木星菜……冥夜さんの妹さんですね。三菜姫としても有名ですが……」
「三菜姫?」
「あら、知らないのですか? 佐々木星菜さん、月菜さん、陽菜ちゃんの三人を指してそう呼ぶそうですよ。ショージさんが言っていました」
「……まぁ、それは置いといて」
陽菜は小さく息を吐く。
「あの子、多分学校では別の顔を作ってる」
「なるほど……」
星菜は学園のアイドル的存在。
一方で、兄の冥夜は番長として恐れられている。
「でも、覚醒遺伝の例もありますし。兄妹で性格が真逆になることも珍しくはありませんよ?」
「それは分かってる。だからこそ、今日は佐々木星菜のことを少し調べてみるつもり」
「……くれぐれも大事にならないようにしてくださいね。あまり目立ちすぎると、あの組織に目を付けられかねません」
「分かってる。無茶はしないよ」
「それならいいのですが……」
エヴァは少しだけ心配そうな表情を浮かべつつ、味噌汁を啜った。
「ふぅ……やっぱり陽菜ちゃんの作る味噌汁は格別ですね!」
「ありがとう。エヴァ、いつも和食ばかりだけど、口に合ってる?」
「ええ。和食、大好きですよ。やはり日本で食べる和食は本場の味ですね。学院で食べていたものとは全然違います」
エヴァは元より、日本通らしい。




