第12話 新たな魔法少女?⑨
「っと、そうしている間にニブラの反応ありですね」
エヴァの声に、室内の空気が一瞬で引き締まった。
「え、今!?」
月菜が思わず声を上げる。
「場所は……市街の河川敷付近ですね」
「……分かった」
陽菜は静かに立ち上がった。
「今回は私用があり、私は同行できませんが……大丈夫ですか?」
「エヴァがいなくても問題ないよ。私用って、《テラ・コア》の件?」
「いえ。それとは別件です。どうやら、こちらを探っている動きがありまして。一度、向こうを撹乱してきます」
「うー、もう一つの件が気になるよ〜〜」
「月菜、行くよ」
陽菜はそう言って、月菜の手を引き、夜の街へと踏み出した。
―――――
河川敷は街灯もまばらで、人の気配はほとんどない。
「……反応、かなり濃い」
陽菜が足を止め、周囲を警戒する。
「分裂型……それも複数だね」
「数が多いってこと?」
「うん。単独ならまだしも、この数は厄介」
別件で動いているエヴァから通信が入る。
『いつも通りの布陣でいきましょう。月菜さん、援護を――』
その言葉は、途中で途切れた。
――影が、動いた。
地面を這うように闇がうねり、歪な形を成す。
『ギ……ギギギ……』
「来た!」
陽菜が一歩前に出る。
「《シャイニー・オン》!」
次の瞬間、二人は魔装を纏い、戦闘態勢へ移行した。
「――サンバースト・スラッシュ!」
灼熱の斬光が闇を切り裂き、ニブラの一体を消し飛ばす。
だが――。
「……多い」
月菜が息を呑む。
影は一体や二体ではない。
十を超える反応が、同時に押し寄せてくる。
「月菜、後ろ!」
「っ!」
反射的に魔力を展開する。
「――《ルナ・ジェイルド》!」
月光の結界が展開され、鋭い爪を弾き返した。
「この数……少しまずいですね」
エヴァの声に、明らかな緊張が混じる。
『援護を厚く――』
その瞬間だった。
――地面が、揺れた。
「……え?」
低く、鈍い振動。
次の瞬間、河川敷の土が盛り上がり、影の群れをまとめて吹き飛ばす。
『ギギ……!?』
「なに……?」
土煙の向こうから、ひとつの影が姿を現す。
青を基調とした魔装。
顔を覆う仮面。
手には、長柄のハンマー。
「……やっぱり」
陽菜が低く呟いた。
「来たね」
その声には、明確な警戒が滲んでいた。
「――あの時の……」
月菜の胸が、強く脈打つ。
仮面の魔法少女は二人を一瞥し、ハンマーを肩に担ぐ。
「この辺り、あたしが片付けるって決めてるんだけど?」
「勝手に決めないで」
陽菜が一歩前に出る。
「そのニブラは、私たちが先に見つけた」
「へぇ」
少女は首を傾げた。
「じゃあ……取り合い?」
その瞬間。
月菜の《ルナ・コア》が、強く震えた。
(……っ!?)
ニブラとは違う。
もっと近くて、もっと重い反応。
自然と視線が、少女へ向く。
仮面の奥から、確かにこちらを見返す気配がした。
「……ふーん。月と太陽の星核リリック持ち、かぁ」
確信を含んだ、静かな声。
(この子が……)
同時に、エヴァの言葉が脳裏をよぎる。
――《テラ・コア》と共鳴した子。
「私は京田月菜! あなたは?」
「さあね。あたしは、名乗る気ないけど」
少女はハンマーを地面に叩きつける。
魔力が解放され、大地が低く唸った。
「次に会ったら、ちゃんと話したいと思ってたんだ」
月菜の問いかけに仮面の奥の視線が、月菜を捉える。
「……あたしは」
低く、告げる。
「――敵かもしれないよ?」
空気が凍りつく。
陽菜が即座に月菜の前へ出た。
「……それ以上、近づかないで」
「ふふ」
少女は小さく笑った。
「その目。やっぱり、あたしはあなたのこと嫌いかな」
次の瞬間、ニブラの影が再び蠢き始める。
「今は、続きはお預けだね」
そう言い残し、少女は影と共に闇へと消えた。
残されたのは、荒れた地面と、重い沈黙。
「……陽菜」
「うん」
短く頷く。
「間違いない」
月菜の胸元で、《ルナ・コア》が静かに脈打っていた。
「あの子が――《テラ・コア》の適合者……」
――――――
暗い路地裏に、ひとり立ち止まる。
「あの子たちが……あたし以外に共鳴した人たち、か」
仮面を外し、ゆっくりと息を吐いた。
「……やっぱり苦手だなぁ。あの二人」
胸元に手を当てる。
そこに確かに宿る、大地の鼓動。
「でも――」
小さく呟く。
「ニブラを駆逐するのは、あたしの役目」
それは、使命であり――祈りでもあった。
「……お兄ちゃんの為にも、ね」
少女は再び仮面を被り、夜の奥へと姿を消した。




