第12話 新たな魔法少女?⑧
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「さて、今夜集まってもらったのは――これからの話、ですね」
時刻は二十二時を少し回った頃。
ニブラ出現の報告は特にないが、エヴァのマンションに緊急招集がかかった。
「そういう話なら、昼間の部活でやれば……」
タクローと夜ドラマを見ている途中で呼び出された月菜は、やや不機嫌そうな表情をしていた。
「ちっちっち、甘いですね月菜さん」
エヴァは人差し指を立て、得意げに笑った。
「部室だと、誰かに盗聴されている可能性があるのですよ?」
「え……じゃあ、昼間のコスプレの話も、周囲を欺くためのフェイクってこと?」
「え、えぇ……その通りですよ!」
一瞬だけ間があった。
「嘘」
淡々と、陽菜が言った。
そしてどこからともなく取り出した雑誌を、テーブルの上に置く。
「……え?」
月菜が表紙を読み上げる。
「【俺たち私たちが2.5次元を創り上げる!】」
どう見ても、立派なコスプレ専門誌だった。
「陽菜ちゃんっ!?」
エヴァは慌てて雑誌を引っ込めようとする。
「エヴァ、最近これにハマってる」
「そ、そうなんだ……」
月菜は引きつった笑顔を浮かべた。
「うぅ……師匠としての威厳が……」
「それは置いておいて」
陽菜はため息を一つつき、話題を切り替えた。
「本題」
空気が、少し引き締まる。
「今、一番懸念しているのは――アズマランドで遭遇した、あの魔術師」
「あの、青い魔法少女の子……」
「仮面を被っていて顔は分からなかった。でも、背丈や声から見て、私たちと同い年くらい」
「そうですね」
エヴァも頷く。
「そして何より問題なのは――」
一拍置いてから、告げた。
「彼女が《星核リリック》を所持していたことです」
「しかも」
陽菜が続ける。
「私たちが調査していた《テラ・コア》と、共鳴していた」
「……っ」
月菜は思わず息を呑んだ。
「共鳴って……そんなに珍しいことなの?」
「ええ。非常に」
エヴァは真剣な表情で説明する。
「星核リリックは全部で十一個。世界人口は約七十億人。さぁ、その中から共鳴する人が出る確率はどのくらいでしょう?」
「え、えっと……」
月菜が指を折って考え始める前に、
「6億3636万3636分の1」
陽菜が即答した。
「……だいたい六億分の一」
「……想像できない」
月菜は素直に呟いた。
「でも、私……普通に共鳴しちゃったよ?」
「だからこそ、私は驚いているのです」
エヴァは月菜を見る。
「《ルナ・コア》に共鳴する子が日本にいるだけでも奇跡なのに、さらに《テラ・コア》の適合者まで現れるなんて」
「でも、エヴァさんが急に渡してきたから……」
「あれは、古木雪奈さんに『協力を求めるなら《ルナ・コア》を調べさせろ』と言われたからなのですよ……」
「エヴァ」
陽菜が静かに言う。
「あれだけ、確認してから渡した方がいいって言った」
「……はい」
エヴァはしょんぼりした。
「ところで」
月菜が手を挙げる。
「古木雪奈さんって誰? それに、あの時言ってた“アンブラ”ってなに?」
「古木雪奈さんは、日本でも数少ない魔術研究者です」
エヴァは少し言い淀む。
「月菜さんの件があってから……連絡が取れなくなりました」
「アンブラは?」
「学院内の合言葉みたいなものです。“アンブラ”と来たら“ルミナ”が対になる――深い意味はありません」
「日本で言う、山と川みたいなもの」
陽菜が補足する。
「……ふーん」
完全には納得していない顔だ。
「話を戻しますが」
エヴァが咳払いをした。
「《テラ・コア》と共鳴した、あの子」
「……敵?」
「断定はできません」
エヴァは慎重に言葉を選ぶ。
「ですが――少なくとも、味方とは考えにくい」
沈黙。
月菜は、胸の奥がざわつくのを感じていた。
「同い年くらいの女の子が……」
「だからこそ、厄介です」
エヴァは静かに言った。
「彼女は、自分が何を持っているかを理解している可能性が高い」
そして、最後にこう付け加えた。
「――次に会った時、向こうがどう出るかで、全てが決まります」
部屋の空気が、ぴんと張り詰めた。
月菜は、無意識に胸元のペンダント――《ルナ・コア》に触れていた。




