第12話 新たな魔法少女?⑦
放課後の校舎裏は、昼間の喧騒が嘘みたいに静かだった。
本日の部活は皆用があるとの事でお休み。
俺は自販機の前で立ち止まり、缶コーヒーを一つ買った。
カコン、と間の抜けた音がやけに大きく響く。
……いるな。
振り返る前から、分かっていた。
「やっぱり来てたか」
俺が言うと、背後から低い声が返ってくる。
「勘がいいね、タク」
佐々木冥夜。
学園の番長、星菜の兄。
壁に背を預け、腕を組んだままこちらを見ていた。
相変わらず、人を威圧するのが当たり前みたいな立ち方だ。
「何の用だよ。文芸部の部室はここじゃねーだろ」
「冷たいなぁ」
冥夜は肩をすくめる。
「タクこそなんで人気のない所にきてるんだい?」
「さぁな。お前の想像に任せるよ」
「ふーん、じゃあ、会ったついでに話をしようか」
その一言で、空気が少しだけ重くなった。
「……何の話だ」
「今日、昼休み」
冥夜の視線が鋭くなる。
「お前の妹と、桑原って子と、接触してたな」
さすがに耳が早い。
「見てたのか?」
「見てたよ。遠くからだけど」
冥夜は笑っている。
でも、その目は全然笑っていない。
「星菜はさ、ああいうのが多い。人が集まって、勝手に期待されて、勝手に距離を詰められる」
「……だから?」
「だから、鬱陶しい」
率直すぎる感想だ。
「正直、全員締め上げてやろうかと思った」
「やめとけ」
即答した。
「中等部相手に、高等部が手出すのはアウトだ」
「冗談だよ」
冥夜は薄く笑っていたが、冗談に聞こえねぇよ。
「でも、星菜が嫌な思いするくらいなら、多少のルール違反くらい――」
「それを一番嫌がるの、星菜本人だろ」
冥夜が、ぴたりと黙った。
図星だ。
「……分かってる」
低く、吐き捨てるような声。
「だから我慢してる。今はまだ」
「今はまだとか言うな」
その口ぶりだといつかやるみたいになってるぞ。
俺は缶コーヒーを一口飲んだ。
「で? 本題はそれだけか」
「いや」
冥夜は視線を逸らし、校舎の方を見る。
「お前の妹だ」
「月菜が?」
「今日、星菜が近づいた時――桑原が前に出た」
陽菜か。
「あの子、ただ者じゃない」
冥夜はそう断言した。
「星菜を見てる目が、普通じゃなかった。あれは星菜を警戒している目だ」
「……ああ」
俺も思い当たる節はあるな。
次の瞬間、冥夜の視線が俺に突き刺さる。
「もしも、星菜に手を出すようなら、相手が誰だろうと関係ない」
「……殺る、か?」
「殺る」
迷いのない声。
「タク、お前でもだ」
「はは」
俺は小さく笑った。
「物騒な兄貴だな」
「物騒じゃない。当然だ」
「悪いとは言わねぇよ」
ただ、と続ける。
「お前が暴れたら、全部壊すぞ」
冥夜はしばらく黙っていたが、やがて肩をすくめた。
「分かってる。だから今日は何もしない」
そう言って、踵を返す。
「タク」
去り際、冥夜が振り返った。
「お前の妹も、気をつけろ」
「……何?」
「星菜は、ただのアイドルじゃない」
意味深な言葉を残し、冥夜は校舎の影に消えていった。
「……面倒なことになってきたな」
俺は空になった缶を握り潰し、ゴミ箱に放り込んだ。
月菜。
陽菜。
そして、星菜。
放課後の空はやけに静かで、嫌な予感だけが胸に残っていた。




