第12話 新たな魔法少女?⑤
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昼休み、本日の昼食は購買部のパン購入で済ます月菜が購買の袋を抱えて廊下を歩いていると、前方に人だかりができているのが見えた。
(……何かな?)
女子も男子も混じって、妙に浮ついた空気。
その中心にいるのは――
「わぁ、ありがとう。あとでゆっくり読むね」
柔らかく微笑みながら、差し出されたノートを両手で受け取る少女。
長い髪を二つで結び、整った顔立ち、穏やかな声。
まるで雑誌から抜け出してきたみたいな存在感。
(……あの子は)
アズマアイランドで会った。
――名を佐々木星菜。
またの名を中等部のアイドル
誰に対しても分け隔てなく優しく、笑顔を向ける女の子。
『星菜ちゃん、次のテストの範囲ここだよね?』
「うん、合ってるよ!」
『今日も星菜ちゃん可愛いな……』
「もう、そんなこと言わないで」
照れたように笑うだけで、周囲の空気が一段明るくなる。
(……わぁ、モテモテだぁ)
月菜は思わず足を止めていた。
「月菜?」
背後から、落ち着いた声。
振り向くと、陽菜が腕を組んで立っていた。
「人だかり、気になる?」
「……ちょっと」
「佐々木星菜。噂の人」
「やっぱり」
「なんであの子人気があるの?」
陽菜はそれだけ言うと、星菜の方へ視線を向けたまま続ける。
「でも」
「?」
「近づきすぎると、面倒事も一緒に来るタイプ」
その言葉に、月菜は小さく眉を寄せた。
――その時。
「あれ? そこの子」
ふいに、星菜の視線がこちらを向いた。
人だかりの隙間から、まっすぐ月菜を見る。
「え、私?」
「うん。前に、アズマアイランドで会ったよね?」
「……あ」
(覚えていてくれたんだ)
アズマランドで会った時とは違い明るく振る舞う星菜に対して戸惑いが月菜にある。
「やっぱり! あの時はお兄ちゃんがいて中々話せなかったけど、月菜ちゃんとは前から話したいって思っていたんだ」
屈託のない笑顔。
距離の詰め方が、自然すぎる。
「お隣の子は?」
「……桑原陽菜」
あくまで警戒するように陽菜は名前を名乗った。
「陽菜ちゃんか……よろしくね」
そう言って、星菜は軽く手を振った。
周囲がざわりと色めき立つ。
(普通に話しかけられただけなのに……)
月菜が戸惑っていると、
「月菜、行くよ」
陽菜が一歩前に出て、さりげなく間に入った。
「昼休み終わっちゃうよ」
「あ、そっか」
星菜は少し残念そうに笑う。
「また話そうね、月菜ちゃん」
「……うん」
二人がその場を離れた。
―――――
「へぇー、アズマランドで会った時は睨んできたのになぁ……」
何やら購買辺りで人盛りが出来ていたと思ったら、月菜と星菜ちゃん。
そして、陽菜ちゃんだった。
「まぁ、あの三人中等部一年では三菜姫って言われていてめっちゃモテてるからね」
ショージは購買で買ったパンを頬張りながら同じくその光景を眺めていた。
「今パンを食べんなよ。後、三菜姫ってなんだよ?」
「中等部一年の三菜姫は月菜ちゃん、陽菜ちゃん、そして星菜ちゃんの事だよ。ほら、名前の後ろの方に菜って漢字が三人に付いているだろ?」
「確かにそうだけど、名前のセンス悪いだろ」
なんだその体に優しそうなネーミングは?
「明るく誰にでも優しい京田月菜ちゃん、クールビューティー桑原陽菜ちゃん、中等部のアイドル佐々木星菜ちゃん。中等部は勿論、高等部でも有名な三人だぞ」
月菜ってそんなモテていたんだなぁ……
「まだ入学して一か月ぐらいしか経ってないのにちやほやされて大変だな」
「全くだよ。妹に害虫が集ってきて鬱陶しいのなんのだよ」
ゆらりと姿を現したのは番長・佐々木冥夜だ。
「げっ!! 佐々木冥夜っ!?」
「おい、今パン屑が俺の方に飛んできだぞ!」
ショージが飛ばしてきたパン屑を払いながら続けて話し出した。
「いっそ、皆締め上げてやろうかな?」
指を鳴らしながら冥夜は人混みに近づこうとしていた。
「止めろ止めろ。中等部の生徒を高等部の生徒が手を出すな」
「でも、縦社会ってもの教えてあげるのも先輩の役目だよ」
低く、刺すような声だ。
コイツ、マジでやるつもりだ。
「そんなアホな通りで締めようとすんな。弱い者いじめして楽しいのか?」
「別に楽しくはないけど、星菜が困ってるなら仕方がない」
なんだコイツ、イカれたシスコンか?
「まぁ、タクが止めるのなら止めておこうかな。今はまだタクとは争う気ないしねーーただ」
「ただ?」
「星菜に手を出すのなら殺るよ?」
冥夜は獲物を定めるような目でそう言い放った。
「僕は文芸部で食事するから」
冥夜は手をあげてその場から離れていった。
「ーーおーっ、こわっ! あの目は何人か殺ってきてるよな?」
「んな物騒なこと言うな」
とか言いつつ教室に戻っていった。




