第12話 新たな魔法少女?②
――――――
突如現れたその少女は、宙を一回転しながら着地した。
地面に叩きつけられたニブラは、断末魔のような音を立てて霧散する。
「……横取り?」
陽菜が、剣を下げつつ警戒する。
「トドメを刺すところだったんだけど」
「悪いけど」
少女は肩に担いだハンマーを軽く回し、面越しにこちらを見た。
「そのニブラ、あたしが追ってたの」
仮面はシンプルだが、青白い結晶のような紋様が走っている。
声は若く、月菜たちと同年代だと分かる。
「……魔法少女?」
月菜の問いに、少女は即答しなかった。
「そんな恥ずかしい括りにしないでよ!」
そう言って、足元に散った魔力残滓を踏み消す。
その瞬間。
――空気が、変わった。
「……っ」
月菜は思わず息を詰める。
胸の奥、ペンダントが微かに熱を持った。
(なに……この感じ)
陽菜も同時に顔を強張らせる。
「エヴァ……」
「ええ。間違いありません」
エヴァの声は低く、緊張を帯びていた。
「あの方から感じる魔力……《テラ・コア》を持っていますね」
少女は、ふっと笑った。
「へえ。もう気づいたんだ」
次の瞬間、彼女は胸元から淡く光る地球を模したペンダントを取り出した。
「自己紹介は省くね。どうせ今は、名乗る意味もない」
ハンマーを地面に打ち付けると、低い振動が広がった。
「でも、一つだけはっきり言っておく」
仮面の奥から、真っ直ぐな視線が突き刺さる。
「――《テラ・コア》は、渡さない」
「それは……」
エヴァが一歩前に出る。
「あなたが《テラ・コア》の適合者であることは理解しました。しかし、それでも回収は学院の使命です」
「使命?」
少女は鼻で笑った。
「便利な言葉だね」
彼女は遊園地の暗闇を一瞥する。
「あたしは《テラ・コア》を使ってニブラを退治していかなきゃならないの。だから、渡すわけにはいかないの!」
「だったら、私たちと協力ニブラを――」
「しない」
即答だった。
「……どうして?」
思わず月菜が口を挟む。
仮面の少女は、少しだけ言葉に詰まったように見えた。
「理由を説明する義理はない」
だが、次の言葉は、わずかに棘を含んでいた。
「ただ、そちら側の学院は信用してない。それだけ」
「……エヴァ?」
陽菜が視線を送る。
「……」
エヴァは答えなかった。
「月菜、下がって」
陽菜が前に出る。
「交渉がダメなら……力ずく?」
「やってみる?」
少女はハンマーを軽く振る。
その一振りだけで、地面に細かな亀裂が走った。
「っ……!」
陽菜の表情が引き締まる。
「相当、使いこなしてる」
「当然でしょ」
少女の声には、揺るぎがない。
「この力で、戦い抜いてきたんだから」
次の瞬間、少女が地面を蹴った。
「――来ます!」
エヴァの警告と同時。
ハンマーが唸りを上げて迫る。
「ルナ・ジェイルド!」
月菜の結界が、陽菜の前に展開される。
ガンッ!!
重い衝撃が、腕を通して伝わる。
「……っ、重い!」
「防御系、厄介」
少女は一瞬で距離を取り、再び構える。
「でも」
ハンマーに、青緑色の魔力が絡みついた。
「こんな壁、あたしの震動で叩き割る!」
大地が応えるように震える。
「――《グラウンド・ブレイカー》!!」
少女が振るったハンマーより衝撃波が生まれた。
その威力は月菜の《ルナ・ジェイルド》を悠々と突破した。
「陽菜!」
「分かってる!」
炎が剣に宿る。
「サンレイ・クレセント!」
三日月状の斬撃が衝撃波を切り裂き、火花が散った。
「……やるね」
少女は後退しながらも、楽しそうに笑う。
「でも、やっぱり渡さない」
「どうしてそこまで――」
月菜が叫ぶ。
少女は、一瞬だけ動きを止めた。
仮面の奥で、何かを噛みしめるような沈黙。
「……これを渡したら」
低い声。
「ーーお兄ちゃんの手助けできない」
「……?」
次の瞬間、少女は距離を一気に詰めた。
「今は、ここまで!」
地面を強く叩くと、土煙が巻き上がる。
「っ、視界が――」
煙が晴れた時。
そこに少女の姿はなかった。
残されたのは、重く揺れる大地の余韻だけ。
「……逃げた、か」
陽菜が剣を下ろす。
「ええ」
エヴァは静かに言った。
「しかし、確信できました。《テラ・コア》の適合者――そして」
月菜は、胸元のペンダントを握りしめる。
「……敵、なの?」
エヴァは、少しだけ言葉を選んで答えた。
「少なくとも――味方ではありません」
夜の遊園地に、再び静寂が戻った。




