第12話 新たな魔法少女?
―――――
これは、数か月前の出来事。
特訓を終えた三人は、学院裏の芝生に腰を下ろしていた。
夕方の風が汗を冷まし、空には薄く茜色が滲んでいる。
月菜はペットボトルの水を一口飲み、ふと、ずっと胸の奥に引っかかっていた疑問を口にした。
「そういえば……二人は、なんで日本に来たの?」
何気ない問いだった。
だが、その言葉を聞いた瞬間、エヴァと陽菜は一瞬だけ視線を交わす。
「あー……」
陽菜が言いかけて、口を閉じる。
「そうですね。確かに、まだ月菜さんにはきちんとお話ししていませんでした」
代わりにエヴァが、ゆっくりと口を開いた。
「私たちが日本に来た理由は、いくつかあります。まず一つは――ニブラの掃討任務です」
「……掃討?」
聞き慣れない言葉に、月菜は首を傾げる。
「ええ。ここ最近、日本国内でニブラの出現頻度が異常に増加しています。その事態を重く見た日本政府が、私たちの所属する学院へ正式に協力要請を出しました」
「せ、政府……?」
思わず息を呑む。
自分たちが相手にしている存在が、そんな国家規模の問題だとは思ってもいなかった。
「まあ、堅苦しく言えばそうだけど」
陽菜は少し肩をすくめる。
「私たちは現地対応班、って感じかな。出たら倒す、被害を出さない。それが役目」
軽い口調とは裏腹に、その言葉は現実の重さを帯びていた。
「でも、それだけじゃないんだよね」
そう言って、陽菜は月菜の胸元――ペンダントに視線を落とす。
「……もう一つの理由。それが――」
「《星核レリック》の調査です」
エヴァが、静かに言葉を継いだ。
「せいかく……?」
「世界各地に点在する、高位魔力媒体の総称です。星そのものの力を核として加工された、極めて希少な魔具の遺物」
エヴァはそう説明しながら、自身のカードを指先でくるりと回す。
陽菜が、自分のペンダントをつまみ上げた。
「これ。《ソル・コア》――太陽の星核」
次いで、エヴァの視線が月菜へ向く。
「そして、月菜さんが所持しているのが《ルナ・コア》――月の星核です」
「……え?」
月菜は思わず、自分のペンダントを強く握りしめた。
「これ……そんな、すごい物なの?」
「すごい、という言葉では足りません」
エヴァの声は、いつになく真剣だった。
「《ルナ・コア》と《ソル・コア》、そして他の星核リリックを糧として“魔法使い”に至った記録が残る、極めて貴重な魔具なのです」
「魔法使いって……そんなに凄いの?」
「ええ。魔法使いは魔術師の最高位。歴史に名を残す者だけが、その称号を得ています」
断言するエヴァに、月菜は言葉を失う。
「そして」
エヴァは一拍置いてから告げた。
「私たちが調査しているのが、地球の星核――《テラ・コア》です」
「……テラ・コア」
「《ルナ・コア》と《ソル・コア》は、元々学院で管理されていましたが、他の星核リリックは所在不明。しかし、確かな情報によれば――この日本、しかもこの町に地球の星核、《テラ・コア》があるとの情報が入ったのです」
「え!? そんな危ない物が!?」
「安心してください。星核リリックは持ち主を選びます。適合しなければ、ただの石ころ同然です」
「じゃあ……私は……」
「月菜は、月に選ばれたんだよ」
陽菜が、少し柔らかく笑った。
「……急に、重くなってきた」
月菜は苦笑しながらも、ペンダントを握る手に力を込める。
「でも……これのせいで誰かが傷つくなら、私はちゃんと向き合う」
その真っ直ぐな言葉に、エヴァは一瞬だけ目を細めた。
「……ええ。だからこそ、私たちはあなたを守ります」
「つまり、ニブラの掃討と《テラ・コア》の調査のために、二人は来たってこと?」
「それとエ――」
「陽菜ちゃん!」
エヴァが慌てて声を上げる。
「それ以上はダメです! 流石に“もう一つの理由”は!」
「でも、ここまで来たら言っても――」
「ダメです!」
「もう一つの理由?」
月菜は首を傾げた。
「それ、聞いちゃいけないやつ?」
「ここまで月菜さんを巻き込んでしまったら……月菜さんが死――」
エヴァは慌てて言い直す。
「……いえ、大変なことになります」
「……死?」
空気が、一瞬だけ凍りついた。
ーーそして、話は現在へと戻る。




