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妹は魔法少女になりましたか?  作者: 吉本優
5月

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第11.5話 兄妹だから間違いは起きませんよ!②





 しばらく二人で話し、月菜が布団に潜っていると。


「……よし、俺もシャワー行くか」


 タクローがそう言って立ち上がる音がした瞬間、

 月菜は布団の中で、ぴくりと肩を跳ねさせた。


(来た……)


 特に意味はない。

 月菜は分かっている。

 ただ、タクローがシャワーを浴びに行くだけだ。


 なのに。


(お兄ちゃんが……今から……シャワー……)


 昼間のアズマアイランドでのこと、ナイトパレード、肩を預けた感触、

 そして——さっきまでの浴室での妄想。


(忘れろ! 今すぐ忘れろ私!!)


 頭の中で必死に叫ぶが、思考は言うことを聞かない。


 やがて、浴室からシャワーの音が聞こえてくる。


(あぁ……音が聞こえるよ……)


 月菜は布団を頭までかぶった。


(違う! 考えちゃダメ! 何も起きない! 何も!)


 数分後。


 シャワーの音が止まり、換気扇の低い音に変わる。


(……もうすぐ出てくる……)


 心臓が無駄に忙しい。


 そして。


 がちゃ、と浴室のドアが開く音。


「ふぅ……」


 タクローが髪をタオルで拭きながら部屋に戻ってきた。


「月菜、もう寝たか?」


「ね、ねてるー!」


 即答。そして、明らかに寝てないという証明。


 しかも裏返った声。


 タクローは一瞬だけ手を止めたが、


「そっか。おやすみ」


 それだけ言って、スマホを手に近くのソファへ向かう。


(……え、一緒のベッドで寝ないの?)


 月菜は布団の中で、静かに崩れ落ちた。


(なんで私はこんなに挙動不審なのに、お兄ちゃんは通常運転なの……)


 ソファで横になったタクローは、何事もなかったかのようにスマホを操作している。


 そして、しばらく操作した後……


「んー、寝るか」


(……鈍感すぎでしょ……)


 タクローが気を使ってソファで寝ようとしているのは分かっている。

 分かっているけど……


「お兄ちゃん……」


「おー、やっぱ起きてたか」


「ベッドで一緒に寝ないの?」


「……いやー、流石に年頃の妹と寝るのは……なぁ?」


(それに母さんにチョキンされたくないしな……)


「そんなの関係ないよ。私、お兄ちゃんと寝るの全然平気だよ。それに今日いっぱい遊んだから、疲れを癒すならしっかりベッドで寝た方がいいよ」


 月菜はそう言うとタクローの手を引っ張りベッドまで連れて来た。


「いやいやー、年頃の男は臭いぞ? 臭くて寝れないぞ?」


 タクローは最後の悪あがきをみせた。


「お兄ちゃんは臭くない! いい匂いだもん!」


(へ? なんか俺、変なフェロモンだしてんのか?)


 自分の匂いについて気になったが、月菜は続けて話す。


「……もしかして、お兄ちゃん……私と寝るの…嫌?」


 涙目を見せる月菜。

 

(……南無三)


「あ、あぁ、そんな訳ないぞー。月菜と寝るの何年ぶりだろうなー。久しぶりだなぁー」


 明らかな棒読み。

 しかしーー


「良かった!! じゃあ、寝よ!」


 素直である月菜はタクローの言葉を信じてしまったのである。


(とりあえず、ソーシャルディスタンスを大事に…)


「えいっ!」


一緒のベッドに入り、距離を取ろうとしたタクローであったが、それをさせまいと月菜は抱きついてきた。


「たまには…甘えたいかな」


(頑張れ俺っ!! 明鏡止水の気持ちを忘れるな!!)


 そう自分に言い聞かせている間にも、

 月菜の体温はじわじわと伝わってくる。


 小さな呼吸。

 規則的な寝息。

 そして、無意識に服の裾を掴む指先。


(……なんで掴むんだ)


 タクローは天井を見つめたまま、動けずにいた。


「……お兄ちゃん」


 寝ようとしていたはずの月菜が、ぽつりと呟く。


(起きてる!?)


 身体が一瞬で強張る。


「どうした?」


 なるべく、いつも通りの声を作る。


「……目、覚めちゃった」


「そっか」


 それ以上、何も言わない。

 言えば余計な方向に転びそうだった。


 しばらく沈黙。


 そして。


「……あったかいね」


「……まぁ、夏だしな」


「そっちじゃなくて」


 月菜はそう言って、さらに距離を詰めてきた。


(詰めるな詰めるな詰めるな、物理的に詰めるな!! 心の距離だけで十分だろ!?)


 しかし現実は非情で、

 月菜の額が、タクローの胸元に軽く触れる。


 心臓の音が、誤魔化せない。


(聞こえるな……これ……)


 案の定。


「……どきどきしてる」


「気のせいだ」


「絶対してる」


 断言される。


 月菜は顔を上げず、ぽつりと続ける。


「……今日さ、すごく楽しかった」


「ああ」


「一日中一緒で、夜まで一緒で……こうやって、同じベッドで……」


 言葉が、少しずつ遅くなる。


「……なんか……変な感じ」


「……変なこと考えるな」


「考えてないよ」


 即答。


 だが、その直後。


「……考えてないけど……考えちゃいそうになるだけ」


(それを考えてるって言うんだ)


 タクローは、そっと天井から視線を外し、

 月菜の頭に手を置いた。


 ぽん、と。


「……今日はもう、寝ろ」


「……子ども扱い」


「まだ、流石に子どもだろ?」


 きっぱり言う。


「今日は一日、遊びすぎた。変なこと考える前に、寝ろ」


 数秒の沈黙。


 そして。


「……じゃあさ」


 月菜の声は、少しだけ小さくなった。


「……手、離さないで」


 それだけ。


 タクローは、少し迷ってから――

 ゆっくりと、指先に力を込めた。


「……それくらいなら」


「……うん」


 それ以上、言葉はなかった。


 月菜の呼吸は、次第に穏やかになっていく。


「……すぅ……」


(……寝たな)


 タクローは、ようやく息を吐いた。


(……本当に、危ないな。本人は無自覚なのが、一番タチ悪い。いずれ、男に騙されないかお兄ちゃん心配だぞ)





 

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