11話 GW、遊ぶぞっ!⑭
「……じゃあ、とりあえずホテルに行くか」
俺の一言に、月菜はぱっと顔を上げた。
「うん!」
返事がやけに早い。
さっきまでの緊張はどこへ行ったのか、足取りも軽やかだ。
アズマアイランドの敷地内を進み、
遊園地エリアから少し離れた場所に建つホテルが見えてくる。
白を基調とした外観は、テーマパーク併設とは思えないほど落ち着いた雰囲気だった。
「わぁ……すごい」
「無料で泊まれるとか、未だに信じられん」
俺がそう呟くと、月菜はくすっと笑う。
「お兄ちゃん、さっきからそればっかり」
「いや、だって普通に高そうだろ」
ロビーに入ると、空調の効いた空気が肌に心地いい。
チェックインはユウゲンがすでに済ませていたらしく、
フロントで名前を告げるだけで、あっさりとカードキーを渡された。
『……お部屋は同室となっております』
その一言に、俺は一瞬固まった。
「え、同室?」
『はい。優玄太郎丸様より……「兄妹だから同室で大丈夫であろう!」とのことで』
無駄に似ているモノマネにツッコミを入れたいのは置いておいて。
「お、お兄ちゃん……」
月菜も、少しだけ視線を泳がせていた。
―――――
「わーっ! 広い部屋!」
ユウゲンが手配した部屋は、ホテルの最上階。
景色が一望できるスイートルームだった。
もはやホテルというより、ちょっとした高級マンションの一室に近い。
――が。
寝室に置かれているベッドは、ツインではなくダブルベッドひとつ。
なぜ、この広さでベッドを二つ置かなかった。
「……ユウゲンの奴め」
恨めしそうに呟いたところで、スマホが震えた。
『おぉ、タクローよ。我が手配した特級の部屋は気に入ってくれたか?』
「あぁ、凄い部屋をありがとうな……で、なんで月菜と同室なんだよ?」
『むぅ? 流石に急であったからな。我でもスイートルームは一部屋しか手配できなんだ』
いや、俺はスイートルームに拘ってねぇ。
『それに、タクロー妹はまだ中学に入ったばかりであろう? 一人で宿泊させるのは心配だ』
「それはそうだけどよ……」
『兄と妹が同室で、何か問題があるのか? まさか……妹に手を出すのか?』
「出さねーよ!!」
『ならば問題ないな。着替えなどはホテルの売店で揃えよ。代金は我宛てで構わぬ。では、ナイトパレードを存分に楽しむがよい』
一方的に言い切って、通話は切れた。
俺はしばらく、スマホを見つめたまま固まっていた。
「……強引すぎだろ、あの野郎」
「で、でも……」
月菜が、おずおずと声を出す。
「一人で泊まるよりは……その、安心、だし……」
言い終えた直後、はっとしたように慌てて付け足す。
「あ、もちろん! お兄ちゃんが変なことするって意味じゃなくて!」
「分かってる分かってる」
苦笑しつつ、軽く頭を撫でる。
月菜は少しだけ照れたように視線を落とした。
「……パレードまで、まだ時間あるな」
壁の時計を見ると、開始までは一時間以上ある。
「売店、行く?」
「うん。着替えも必要だし」
ホテル内の売店は、思った以上に充実していた。
簡単な部屋着や下着、洗面用品まで、一通り揃っている。
「こういうところ、無駄に気が利いてるよな……」
「さすがアズマアイランドだね」
月菜は新しい部屋着を手に取って、少し嬉しそうにしていた。
部屋に戻ると、自然と行動が分かれる。
俺はソファ側、月菜はベッド側。
「……お兄ちゃん」
「ん?」
「今日は、ありがとう」
「何が?」
「いっぱい遊んでくれて。泊まりも……」
小さな声だったが、妙に胸に残った。
「楽しかったのは、俺も同じだ」
そう返すと、月菜はにこっと笑った。
窓の外では、遊園地の灯りが一気に明るさを増していく。
「そろそろ、行くか」
「うん!」
少し落ち着かないまま――
それでも確かに特別な気分のまま、
俺たちはナイトパレードへ向かう準備を始めた。




