11話 GW、遊ぶぞっ!⑩
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アトラクションを一通り眺め回ったあと、
人の流れから少し外れた芝生エリアに腰を下ろした。
遠くからはジェットコースターの悲鳴と歓声。
近くでは子どもたちの笑い声と、風に揺れる木々の音。
不思議と、ここだけ時間の流れがゆっくりだ。
「……よし。じゃあ、とりあえず」
俺は背中からリュックを下ろし、芝生にシートを敷いた。
ファスナーを引く音に、月菜がぴくっと反応した。
「お昼にしよう」
「ほんと!? やったぁ!」
月菜は即座に隣へぺたりと座り込み、
覗き込むように弁当箱を見る。
「お兄ちゃんのお弁当だ。楽しみ!」
「そんな大層なもんじゃないぞ」
言いながら、二段の弁当箱を開く。
ふわっと広がる、どこか落ち着く匂い。
卵焼き、唐揚げ、野菜の肉巻き。
色合いを意識したサラダと、小さなフルーツケース。
「……」
月菜は一瞬、完全に言葉を失った。
「……すご」
「普通だろ」
「普通じゃないよ!? 売り物みたい!」
「褒めても何もでんよ?」
「だって私、絶対こんなの作れないし……」
月菜が作ったら、たぶん炭になる。
いや、逆にどうやったらそこまで失敗できるのか気になる。
月菜は箸を持つ手を少しだけためらわせてから、
卵焼きをそっと口に運んだ。
もぐ。
……もぐもぐ。
「…………」
「どうだ」
「……お兄ちゃん」
「ん?」
「これ、幸せの味する」
「大げさだ」
そう返しつつ、
自分でも驚くほど口元が緩んでいた。
月菜は唐揚げを一つつまみ、俺の方へ差し出す。
「はい」
「俺の弁当だぞ」
「一緒に食べるんでしょ?」
「……まあな」
受け取って口に運ぶ。
外の空気で食うせいか、
いつもより少しだけ、うまく感じる。
「ねぇ」
月菜が箸を止め、少しだけ視線を落として言った。
「こういうの……ずっと続いたらいいね」
「どういうのだ」
「お兄ちゃんとお出かけして、お兄ちゃんのごはん食べて……」
一瞬、言葉に詰まる。
「……変?」
「変じゃない」
考えるより先に、口が動いた。
「ただ、あと何年かしたら大学やら就職とかで、家を離れる可能性はあるぞ?」
「ダメダメ! お兄ちゃんは自宅から通えるところにして!」
「それに月菜だって、いずれは結婚するだろ? そん時は家を出るんだろ?」
「私はお兄ちゃんのお嫁さんになるから大丈夫だもーん!」
「んな無茶苦茶な……」
「えへへ」
月菜は楽しそうに笑って、また箸を進める。
その横顔を見ながら、俺は空を仰いだ。
青空。
遠くで聞こえる歓声。
あまりにも、平和すぎる昼。
(……月菜は偉いな。いつも、ここにいる人たちを守ってるんだよな)
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少し離れた植え込みの影。
「月菜さん、羨ましです! 愛妻弁当ならぬ愛兄弁当を召し上がるだなんて!」
「確かにあの弁当美味しそうだね……というか、私たちはなんでこれなの?」
エヴァと陽菜の手には、アンパンと牛乳が握られていた。
「古来より日本では、張り込みといえばあんぱんと牛乳と相場が決まっているのですよ」
「……エヴァ、色んなのに影響受けすぎ。それに私、牛乳苦手なんだけど」
「あまり好き嫌いしていたら大きくなれませんよ!」
エヴァは無駄に胸を張る。
「いや、エヴァくらい胸あったら逆に邪魔じゃないかな?」
「胸の話ではありません!」
びしっと否定しつつも、
エヴァの視線は芝生の弁当から一切離れていなかった。
「……いいなぁ」
「ですね……」
二人は同時に、アンパンをかじる。
その瞬間、
月菜の「おいし〜……」という声が、風に乗って届いた。
「…………」
「…………」
エヴァと陽菜は、何も言わずに顔を伏せた。
二人の感情はただ、月菜を羨むことである。




