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妹は魔法少女になりましたか?  作者: 吉本優
5月

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11話 GW、遊ぶぞっ!⑨






 お化け屋敷から出て、ようやく落ち着きを取り戻した月菜は目に見えてテンションを回復させていた。


「お、お兄ちゃん……! 次は動物ふれあいパーク行きたい!!」


「おい、さっきまで泣きそうだったろ」


「動物は別っ! 動物は癒しっ!」


 目がキラキラしている。

 さっきまでお化けに怯えてしがみついてた子とは思えない。


「はいはい。じゃあ行くか」


「やったぁ!」


 月菜はさっきまで握っていた手をそっと離したけど、

 歩幅はぴったり隣に合わせてくる。距離は近いまま。


 そして到着したのが――

 巨大な池と緑が広がる「動物ふれあいパーク」。


「うわぁ……広い!」


「ふれあいって言ってもいろんなエリアあるんだな」


 ウサギ、カピバラ、アルパカ……

 そのなかで月菜が足を止めたのは、一際静かな区画だった。


「……ハシビロコウだ!」


 檻の前で、月菜の声が無駄にひそひそ声になる。


 動かない鳥・ハシビロコウ。

 凛と立ち、微動だにしないその姿。


「……こわっ」


「何で!? 超かわいいじゃん!」


「いや、睨んでるし」


「ハシビロコウは動かないからこそロマンがあるの! ね、ね、ほら……!」


 そう言って月菜は檻の前で正面に回り込み、

 じーっとハシビロコウを見つめた。


 ――動かない。


「……きょ、今日はいまいち動かないね」


「いや、ハシビロコウはあんま動かんぞ?」


「むぅ……」


 と、そこへ。


「……あれ。こんなところで何をしているの?」


 気の抜けたような声が背後からした。


 振り返ると、黒いパーカーに前髪が目にかかるぐらい長い髪の紫苑学園の番長佐々木冥夜が、飄々とした表情で立っていた。


「冥夜? 何やってんだよ」


「妹が来たいって言うから付き合ってるだけだよ……って」


 冥夜の横に、小さめの女の子がひょこっと顔を出す。


 冥夜の妹――

 確か星菜せいなって名前だったか?


「……こんにちわ。お兄ちゃん、この人たち誰?」


 キッとこちらを睨んできた。

 そんな睨まんでも……!


「この人たちは同じ学園の生徒たち。トラブルメーカーのオカ研の京田琢郎とその妹の月菜って子だよ」


 いつもと違って冥夜は穏やかに妹に語りかけていた。

 てか、俺はトラブルメーカーじゃねーよ!


「ふーん、この人が…ね……」


 星菜ちゃんの目はさらに鋭くなる。


「妹と遊園地でデートだなんて、タクはシスコンなんだね」


「そういうお前もだろ」


「ふっ、僕は星菜に頼まれて付いてきただけさ。少なくとも君たちと違って手は繋いでいないよ」


 そこを指摘されたら月菜は慌てて手を離した。


「ふーん、兄妹なんだけど仲がいいんだ」


 星菜はそう言いながら、月菜のほうへ一歩近づいた。

 距離は近いのに、表情はどこか無機質だ。


「え、えっと……普通だと思うけど?」


 月菜は少しだけ困ったように笑う。


「お兄ちゃん優しいし、一緒にいると安心するし……ね?」


 そう言って、ちらっと俺を見る。

 さっきまでの緊張はもう抜けているらしい。


「……安心、か」


 星菜は小さく呟いた。


 その声は俺にも月菜にも届いたはずなのに、

 どこか独り言みたいだった。


「星菜、変なこと言わないよ」


 冥夜が間に入るように肩をすくめる。


「こいつ、同い年の女の子見るとじっと観察する癖があるんだよ」


「ちょっと、お兄ちゃん……」


 星菜は不満そうに冥夜を見上げたあと、

 再び月菜へ視線を戻す。


「……月菜、だっけ」


「う、うん」


「ハシビロコウ、好き?」


 いきなり話題が戻った。


「え? うん! あんまり動かないのが逆に可愛くて!」


「……そう」


 星菜は檻の中のハシビロコウを見る。


 鳥は相変わらず微動だにせず、

 まるでこちらを観察しているかのようだった。


「動かないのに、ちゃんと周りを見てるんだよね」


「……え?」


「逃げないし、焦らない。でも――必要なときは、一瞬で動く」


 月菜は「へぇ……」と感心したように頷いた。


 だが俺は、その言葉が妙に胸に引っかかった。


「詳しいんだな」


「……まあね」


 星菜はそう言って、初めてほんの少しだけ口元を緩めた。

 笑顔――のようで、どこか違う。


 そのとき、ハシビロコウがゆっくりと首を動かした。


「――あっ!」


 月菜が声を上げる。


「今、動いた! 見た!? 今見たよね!?」


「お、おう……」


 確かに動いた。

 だが、偶然かどうかは分からない。


 星菜はその様子を、静かに眺めていた。


「……タイミング、いいね」


 その一言に、理由もなく背筋が寒くなる。


「そろそろ行くぞ、星菜」


 冥夜が声をかけると、星菜は素直に頷いた。


「……またね、月菜ちゃん」


「うん! またね!」


 月菜は無邪気に手を振る。


 星菜は一瞬だけ立ち止まり、

 もう一度、月菜を見る。


 まるで――

 何かを胸に刻みつけるように。


 そして何も言わず、冥夜の後を追って歩き出した。


「……なんか、不思議な子だったね」


 月菜がぽつりと言う。


「そうだな」


 俺はそう答えながら、

 去っていく星菜の背中から目を離せなかった。


 



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