11話 GW、遊ぶぞっ!⑥
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ゲートをくぐると、そこはもう完全に別世界だった。
焼きたてポップコーンの匂い、明るいBGM、遠くから聞こえる悲鳴混じりの歓声。
人の流れも空気も、全部がお祭りの真ん中みたいだ。
「わあああっ!! 見て見てお兄ちゃん! 観覧車! コースター! あっちのキャラショーも気になるし、こっちの建物なんか可愛い!!」
「いや、落ち着け。全部に指さすな」
月菜は完全にパンクしていた。
楽しさの情報が多すぎて、処理が追いついてないタイプのはしゃぎ方だ。
「ねぇねぇお兄ちゃん! 最初、どこ行く!? コースター!? 観覧車!? それとも――」
「まずは顔向けんな。落ち着け。深呼吸しろ」
「すぅーー……はぁーー……」
その瞬間、月菜の視線がぴたりと止まった。
「……あれだ」
指差した先には――
*アズマアイランド名物・宙返りコースター
『ドラゴンループΩ(オメガ)』*
巨大なドラゴンのオブジェの口から発車する、超絶ループ型ジェットコースター。
絶叫系の目玉アトラクションだ。
「……お前、絶叫系いけるクチだっけ?」
「わたしは……いける!!(と思う!!)」
後半の声がめっちゃ弱い。
「じゃあ、行くか」
「い、行く……行くよ……!」
月菜は自分に言い聞かせるように頷いたが、
手はしっかり俺の袖を掴んでいる。
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「……おやおや。いきなりアレに挑戦ですか」
「月菜、死なない?」
「死なないですよ!! ……多分」
少し後ろから尾行しているエヴァと陽菜も、同じコースターを見上げていた。
「エヴァ、あれ乗りたいの?」
「乗りたくないこともないですけど、私は護衛で……」
と言いつつ、目が輝いている。
「乗りたいんだね」
「うっ……ち、違います! 任務です!!」
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案内板に従って進むと、すでにかなりの列ができていた。
推定待ち時間――30分。
「……まぁ、こんなもんか」
「三十分……! でも全然待てるよ!!」
月菜はポジティブだった。
というより今日はずっとハイテンションだ。
しかし列に並んで10分も経つと――
「お兄ちゃん……」
「どうした」
「緊張してきた……!!」
目が泳いでいる。
列の先で聞こえる絶叫が、確実に彼女の恐怖を煽っていた。
「今さら引けねぇぞ?」
「う……! 引かない! 絶対引かない!! だって今日はお兄ちゃんと来たんだもん!」
「そんな理由で強気になるな」
「なるよ!」
ぎゅっと俺の腕を掴み直す。
手汗まで伝わってくる。
まあ、でも――
(こいつ、こういうスリル系の時ほど楽しむタイプなんだよな)
そんな予感がした。
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列はゆっくり進み、ついに乗車直前。
目の前で絶叫に消えていく乗客たちを見て、月菜の足がプルプル震え出した。
「ムリ……かも……」
「もうここまで来たら乗るしかねぇぞ」
「うぅぅ……! お兄ちゃん手、手、手貸してっ!」
「それ安全バー閉まったら離せって言われるぞ」
「今だけ!!」
月菜は目をぎゅっと閉じて深呼吸した。
その横顔が本気で怖がっていて、でもそれ以上にワクワクしていて――
なんか、ちょっと微笑ましい。
「じゃあ月菜――最初のアトラクション、全力で楽しめよ」
「う、うんっ……!!」
乗り込み口が開く。
安全バーが上がる。
二人は並んで座席に腰を下ろした。
月菜の心臓の音が聞こえてきそうなほど震えていたが――
その目はしっかり前を見据えていた。
「――発車します!」
スタッフの声と同時に、コースターはゆっくりと動き出す。
「い、いくぅぅぅぅ……!!」
月菜はすでに半泣きだった。
……まぁ、叫ぶだろうな
俺は覚悟した。




