11話 GW、遊ぶぞっ!④
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妹と遊園地に行く。
ただそれだけのはずなのに――
『ちゃんとオシャレしてね!!』
と昨夜、月菜に念押しされたせいで、俺は鏡の前で髪を整えたり服のシワを伸ばしたりしている。
……別にジャージで行くつもりはなかったけどな。
一応、人前に出られるカジュアル服。
黒のシャツに、淡い色のパーカー。
これなら文句は言われないだろう。
しかし。
「……月菜、準備長くね?」
時計を見る。
出発時間の三十分前。
俺はもうとっくに出られる状態だ。
二階の月菜の部屋からは、バタバタと忙しない足音が続いている。
『あーーー! どれがいいかなぁぁ!?』
『やっぱこっち!? でもこっちも可愛い……!』
……服選びで悩んでいるらしい。
月菜もオシャレを気にする年頃になったんだなぁ。
そう思っていたら――
「お兄ちゃん!! できたぁあ!!」
月菜が階段を駆け下りてきた。
ワンピースに薄手のカーディガン。
髪はいつもより丁寧に結ばれていて、ツヤまで出てる。
普段より少しだけ大人びて見えた。
月菜はスカートの裾を掴んで、きゅっとこちらに向き直る。
「ど、どう……?」
「あぁ、似合ってるよ」
「っっ!?!?」
顔が一瞬で真っ赤になった。
「に、似合ってるって言われると思ってなかった……嬉しい……っ」
「そんなにハードル低かったのか?」
「お兄ちゃん褒めてくれない時あるもん!」
「いつだよ」
「こないだ髪結んだ時!」
「あれは寝癖を直しそこねただけだろ」
「ち、ちがうもん!! おしゃれ心だもん!!」
ぷんすか怒ってるくせに、目は完全に笑ってる。
浮き足立ってるのがダダ漏れだ。
「……楽しみなんだな」
「う、うん! めちゃくちゃ……!」
月菜は胸のあたりを押さえて、小さく弾むように言った。
そんなにアズマアイランドに行きたかったんだな。
「お兄ちゃんと遊園地なんて……中学入ってから初めてだし……一緒にお出かけってだけで……なんか、どきどきする」
「兄妹でデート気分ってのもどうなんだよ」
「デートなの! 兄妹だけど!!」
なんだそれ。
兄としてツッコミたいのに、なんか喜んでる感じが伝わってきて止められない。
「よし、行こっ! あっ、お弁当は? ちゃんと持った?」
「ここに入ってる。ほら」
俺が手提げバッグを持ち上げると、月菜はほっと息をついて微笑む。
「よかったぁ……。今日、絶対、絶対楽しむんだもん!」
「お前が走って転けなきゃな」
「もー! 今日は転ばないよ!」
そう言いながら靴を履く動作がすでに若干ふらついているのが月菜らしい。
「お兄ちゃん!」
「なんだよ」
「……行こっ!」
ぱぁっと咲いたような笑顔。
年相応で、でも少しだけ女性っぽくて――
そりゃ準備にも時間かかるわけだと納得した。
「はいはい。じゃあ出発するか」
「うんっ!」
二人で玄関を出ると、朝の光がまぶしく照りつけた。




