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妹は魔法少女になりましたか?  作者: 吉本優
4月

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10話 魔法少女になった日⑪





 二体のニブラが黒い霧となって消え去ると、ようやく家の中に静けさが戻った。

 けれど月菜の耳の奥では、まだ“ドクン、ドクン”と自分の心臓の音だけが騒がしい。


「は、はぁ……はぁ……」


 震えた手から杖がカランと落ち、月菜はその場にへたり込む。


「月菜、大丈夫……?」


 陽菜も膝をつき、肩で息をしていた。さっきの衝撃と緊張で、全身の力が抜けている。


 エヴァは壁にもたれながら、痛む体を押して周囲を確認した。


「二人とも、まず落ち着いて……。怪我人の状態を確認しないと……っ」


 その言葉で、月菜の意識はようやくタクローへ向けられる。


「お、お兄ちゃん……!」


 リビングの床に倒れたタクロー。

 肩口から大きく裂けた傷が広がり、服が赤黒く濡れていた。


 ニブラの爪は深く肉に達し、血の量も多い。


「だめ……こんな……!」


 月菜は震える指先で触れるのも怖く、息が詰まる。


 エヴァはよろめきながら膝をつき、応急処置キットを取り出した。


「月菜さん……陽菜ちゃん……私の指示に従って。大丈夫、落ち着いて……できますから」


「……うん」


「はい……っ」


 声は震えているのに、エヴァの手だけは確かだった。


「まず止血。陽菜、清潔な布を。月菜さんはタクローの頭を支えて……呼吸は……まだ安定してる……よかった……」


 月菜は震える手でタクローの頭をそっと持ち上げる。

 普段はからかってくるくせに、今はこんなにも弱々しい。


「お兄ちゃん……聞こえる……?」


 名前を呼んでも返事はない。それでも呼吸している音だけが救いだった。


 陽菜が布を押し当て、エヴァが確かな動きで圧迫していく。


「傷は深いですが……致命的ではありません。救急が必要ですが……外はまだ安全とは言えませんね……」


 月菜の胸はずっと苦しく、魔具は脈のように熱を放っていた。

 覚醒したばかりの力は制御できず、ニブラを倒せたとはいえ怖いだけだった。


「月菜……さっき、すごかったよ。でも……無茶しすぎ……」


「わ、わたしも……何がどうなったのか……っ。ただ……勝手に身体が……」


 エヴァは布を押さえながら振り返り、優しい声を向ける。


「月菜さん……あなたは覚醒しました。巻き込んでしまって……本当に申し訳ありません。でも……無事でいてくれてよかった……」


 月菜は唇を噛んで小さく頷いた。


 圧迫し続けたおかげで出血が弱まり、ひとまず危険は遠のいた。

 だがタクローの呼吸は弱く、顔色も悪い。


「……お兄ちゃん……お願い、起きてよ……!」


 月菜の声は震え、涙がぽろぽろと頬を伝った。


「……駄目、これ以上は……処置が追いつかない……」


 陽菜が悔しげに唇を噛む。


 エヴァも肋を押さえながら、険しい顔で呻く。


「搬送すべきですが………」


 月菜だけではなくタクローまで巻き込む事になる為、エヴァは悩んだ。


(……お兄ちゃんが……死んじゃう……)


 怖い。

 でもそれ以上に――


(……助けたい……助けたい……!!)


 その瞬間だった。


 胸元のペンダントが、ぽうっと温かい光を放つ。


「え……?」


 まるで月菜の願いに応えるように、金色の光が脈打つ。


「月菜……離れ――」


 陽菜の声より早く、


 月菜の手が、無意識にタクローの傷へ伸びた。


「お兄ちゃん……お願い……助かって……!」


 ――ぱぁぁぁぁ……!


 柔らかくて優しい金色の光が、月菜の手のひらから溢れ出す。


「うそ……!?」


 陽菜が思わず手を止める。


「この出力……治癒魔術……? そんな……覚醒直後で……」


 エヴァは驚愕に目を見開いた。


 光がタクローの傷へ吸い込まれるように広がり、

 裂けた皮膚が閉じ、損傷がみるみる再生していく。

 荒かった呼吸が、ゆっくりと安定していく。


「お兄ちゃん……よかった……!」


 月菜は胸に手を当て、泣きそうな笑顔で呟いた。


 だがタクローはまだ目を覚まさない。

 傷が塞がっただけで、意識までは戻らない。


「……こんな精度の治癒……いきなりできるものじではありません……」


 エヴァは呆然としたまま月菜を見つめていた。


 陽菜は月菜の横顔を見つめ、ぽつりと呟く。


「月菜……ほんとにただの小学生だったの……?」


「わ、わかんないよ……! ただ……お兄ちゃんを助けたいって……思ったら……勝手に光が……!」


 月菜自身、何が起きたかわからず困惑していた。


 それでも――

 タクローの呼吸が落ち着いたのを見て、そっと手を握る。


「……お兄ちゃん……大丈夫だから……ゆっくり休んでね……」


 その声は、静かな部屋に優しく響いた。




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