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妹は魔法少女になりましたか?  作者: 吉本優
4月

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10話 魔法少女になった日⑨





―――――





 様々な不安要素を抱えつつ、一行は月菜の家にたどり着いた。


「うーん……本当に大丈夫かなぁ……」


 月菜の声にはまだ不安が滲んでいた。


「勿論ですっ! ドンっと任せてください!」


 エヴァは胸を張り、少しでも頼もしく見せようと笑顔を作る。


(……不安だなぁ……)


 月菜は胸の奥でざわつく感情を押さえつつ、玄関のドアノブを握った。そして深呼吸して開ける――その瞬間、三人の足が同時に止まった。


「……嫌な気配がしますね」


 エヴァの声が普段より低く、冷たい響きを帯びた。手にはすでに魔術カードが握られている。


「月菜さん、後ろに──」


 陽菜が前に踏み出し、魔装を展開しようとした瞬間。


 リビング奥の暗がりが、不気味に揺れた。


 黒く濁った影。普通のニブラより一回り大きく、輪郭が揺らめき、まるで生き物のように蠢いている。その目――赤く光る瞳が、月菜を見据えた瞬間だけ鋭く光った。


 ――中型ニブラ。


 低い唸り声が床を震わせ、空気を振動させる。


「な、なんで……家の中に……」


 月菜の声は震えていた。


 その足元、影の手前に倒れ込む人影。


「……! お兄ちゃん!!」


 タクローだった。左肩から脇腹にかけて深く裂かれ、血が床に滲んでいる。


 エヴァが即座に判断する。


「生命の危険はまだありません……! ただの物理的な裂傷です! 月菜さん、落ち着いて!」


「近づいちゃダメ!!」


 陽菜が、タクローへ駆け寄ろうとした月菜を抱き留めたその瞬間――


 中型ニブラが、まるで嗤うかのように顔を歪め、床を叩きつけた。


 ドンッ、と衝撃波が広がり、影が触手のように伸び、三人へ襲いかかる。


「来るよ!!」


 二人の魔装がほぼ同時に展開される。


「《フォルド・シールド》!!」


 エヴァが即座に防御魔法を発動する。青い半球状の結界が三人とタクローを包み込む。


 触手が結界に叩きつけられ、黒い火花が散った。


「……くっ、強度が……!」


「なら私が削る! 《サンバースト・スラッシュ》!!」


 陽菜の炎剣が煌めく。月光を帯びた炎の軌跡が触手を焼き切る。中型ニブラは一歩退くが、なお月菜だけを睨み続けていた。


(……完全に月菜さんを狙ってる……!)


 その時――


 月菜の胸元。服の上から魔具が脈打った。弱く、しかし確かな金色の光。


 ニブラの瞳がさらに赤く染まる。


「やっぱり……魔力に引かれてるんです!」


「わ、わたしっ……どうしたら……!」


「何もしなくていい! あなたは隠れて!」


 陽菜が背後から月菜を庇う。


「でも……お兄ちゃんが……!」


 タクローは意識を保とうと微かに目を開いた。力なく、震える声で絞り出す。


「……月菜……逃げ……ろ……」


「お兄ちゃんっ!!」


 月菜は涙を拭い、震える手で胸元の魔具に触れながら、顔を上げた。


(お兄ちゃんを守らなきゃ……!)


「月菜さんから離れなさい!!」


 エヴァがカードを扇状に広げ、魔法式を空中に展開する。


「《グラヴィティ・ピラー》!!」


 床から青白い光柱が突き上がり、中型ニブラの動きを一瞬拘束する。しかし影はすぐ形を崩し、光柱の隙間から抜け出した。


(……重力魔術が効かない……!?)


 額に汗を滲ませるエヴァ。


「陽菜さん! 二重防御、お願いします!」


「うん、《サンシールド》!!」


 陽菜が炎の障壁を追加し、エヴァと半円形の防御陣を作り上げる。だが、中型ニブラは結界の隙間を探るかのように触手を細かく変形させ、差し込んでくる。


「……こいつ、知能がある……!」


「月菜さんは絶対に渡しません!!」


 エヴァの声が怒りで震える。焦りと恐怖が混ざり合っている。


(……お兄ちゃん、無事でいて…!)


 その瞬間――


 中型ニブラが跳びかかり、結界が悲鳴を上げてひび割れた。


「来る!!」


 陽菜が剣を構え――

 エヴァがカードを正面に向け――


 中型ニブラが月菜へ一直線に襲いかかる。


 しかしーー


「ぐぅっ!!」


 背後から何者かが襲いかかる音。


「エヴァっ!? まさか……」


 陽菜の予感は的中した。背後にもう一体、中型のニブラが現れたのだ。


「くっ、油断しました……」


「エヴァっ、大丈夫!?」


「えぇ、大丈夫です……しかし――」


 戦況は絶望的だった。前方と背後の二体の中型ニブラ。タクローは重傷で意識不明。エヴァも負傷した。


 今、まともに戦えるのは陽菜ただ一人。


(今の戦況を覆すのは難しい……なら――)


「陽菜ちゃん、月菜さんを連れて逃げてください」


「え、え、何を言っているの……!?」




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