10話 魔法少女になった日⑧
「反応って、どういう意味なの!? 光ってるんだけど!? ねぇっ!?」
胸元の魔具は、さっきまでただのペンダントだったとは思えないほど強い光を放っていた。
淡い金色の脈動が、月菜の鼓動と呼応するように明滅している。
月菜は胸を押さえたまま、今にも泣き出しそうな声をあげた。
「エヴァ、これ……まずいよ。完全に“共鳴”が始まってる」
駆け寄った陽菜の顔は青ざめていた。
いつもの落ち着いた雰囲気がどこにもない。
「……予想より早いですね。月菜さんの魔力、やっぱり規格外です」
エヴァの落ち着いた声が響くが、月菜には意味が分からない。
「だからどういうことなのーー!!?」
取り乱す月菜に、陽菜は慌てて魔具を包み込むように押さえ、必死に落ち着かせようとした。
「大丈夫、落ち着いて。これは……持ち主の魔力と魔具が共鳴するときに起きる現象なの」
「持ち主!? わ、私が!? そんな急に!? 怖いよ!!」
「ご、ごめん! 言い方が悪かった! 正式に“契約”したわけじゃないんだ!」
月菜の不安が伝染したのか、陽菜の声にも焦りが滲む。
その横でエヴァは水晶のような装置を机に置き、迷いなく起動させた。
ふわりと空中に光の陣が展開し、いくつもの魔法式が重なって回転を始める。
「……やはり。魔具は月菜さんを『適合者』と判断しています」
「えっ……え、それって私どうなるの?」
「月菜さんには魔術師としての資質があります。それも、非常に強いものが」
「えぇぇぇ!? 私、そんな強キャラじゃないよー!?」
涙目で叫ぶ月菜。
陽菜まで気まずそうに視線を逸らす。
「大丈夫だよ。本来なら暴走してもおかしくないけど……あなたの魔力、驚くほど安定してるから」
「ほ、ほんとに……?」
「うん。今は光ってるだけ。危険はないよ」
陽菜の言葉に、ようやく月菜の呼吸が整っていく。
魔具の光も次第に弱まり、静かに沈黙を取り戻した。
だがエヴァの表情は険しいままだ。
「とはいえ、この状況を放置するわけにはいきません。さきほどニブラが現れたのは……偶然ではないでしょう」
「え……?」
月菜は陽菜の方を見る。
陽菜も真剣に頷いた。
「ニブラは、人の負の感情から生まれる存在。でも――」
陽菜の目が鋭く細められる。魔装姿のときと同じ、戦う者の目。
「強い魔力にも引き寄せられる」
「…………」
月菜は思わず唾を飲み込む。
「だから、今あなたを一人で帰すのは危険。さっきのは小型だったけど……次も同じとは限らない」
「で、でも……お兄ちゃんに何も言ってないし……」
「魔術の存在は一般の方には説明できません。ですが、お兄さんには私から上手く話を通します」
エヴァは安心させるように微笑んだが、どこかぎこちない。
「エヴァ、本当に大丈夫? 説明って……」
陽菜は不安げに眉を寄せる。
「も、もちろんです! こう見えても私は“そこそこ”実力があるんですよ?」
(……そこそこ、なんだ……)
月菜と陽菜の心がそろって不安に傾いた。
しかしエヴァはぱんと手を叩いて空気を変える。
「では月菜さんのご自宅へ行きましょう。必要な物だけ取って、すぐ戻ります。善は急げ、です!」
「えっ、今から……?」
「はい。あなたの安全が最優先ですから」
陽菜も力強く頷く。
「一緒に行くよ。帰り道もちゃんと見ておくから」
「……うん」
月菜は胸元の魔具をそっと握った。
そこにはまだ、ほんのりとした温かさが残っている。
(どうして……どうして私なんだろう……)
疑問は消えない。
だけど、止まってはいられない。
月菜は小さく息を吸い、二人に向かって頷いた。
「行こう……二人とも」
三人は立ち上がり、玄関へ向かう。
この先に何が待っているのか、月菜はまだ知らなかった――。




